2024年11月22日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年11月18日

 2016年7月になってようやくクリントン陣営は、「一緒になればもっと強くなれる」という新たなメッセージを作ったのです。白人、ヒスパニック系、アフリカ系及びアジア系などすべての人種・民族が協力すれば国やコミュニティが良くなるというメッセージです。ヒスパニック系やイスラム系を標的として人種並びに民族を分断する選挙戦略をとったトランプ候補と対比する狙いがあったのです。それに加えて、サンダース陣営と一緒になって戦おうという意図もありました。

 クリントン候補は出馬宣言をしてから人種や民族の融和を呼びかけるメッセージを発信するまでに、15カ月を費やしています。選挙戦におけるメッセージという視点から言い換えますと、15カ月間の空白を作ってしまったのです。さらに悪いことに、内部告発サイト「ウィキリークス」はクリントン陣営の幹部が同候補の「中間層のために戦う」というメッセージが浸透していない点について議論しているメール内容をネット上で暴露したのです。トランプ候補のメッセージは白人労働者及び退役軍人に突き刺さっていましたが、クリントン候補のそれは彼らの心にまったく響いていなかったのです。

メッセージの形成の仕方

 次に、トランプ・クリントン両候補のメッセージを比較してみましょう。メッセージは4段階を経て形成されます。

 第1に、ブレインストーミングを通じて複数のメッセージを出し合い、最終的に核となるそれを選択します。第2に、何故核となるメッセージが有権者にとって重要なのか、選択した理由を明確化します。第3に、核となるメッセージをどの有権者に最も浸透を図りたいのかを決定します。たとえば、トランプ陣営は白人の労働者階級並びに退役軍人を最も重要度の高いグループに分類をしたわけです。第4に、核となるメッセージを実現するための政策を作って有権者にアピールをします。

 トランプ候補を例にとってみましょう。

 選挙期間中、同候補は、「米国を再び偉大な国に取り戻す」という核となるメッセージを一貫して発信しました。米国が他の諸国に移民や通商政策において敗れていると議論してメッセージの重要性を訴えたのです。そのうえで、オバマ大統領の医療保険改革制度の廃止と取り換え、国境の壁の建設、イスラム教徒の一時的入国禁止、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉並びに環太平洋経済連携協定(TPP)の脱退を挙げました。これらの変革(チェンジ)を実行に移せば、米国は再生すると主張したのです。一方、クリントン候補は「一緒になればもっと強くなれる」というメッセージに対して具体的な政策を示すことができませんでした。


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