紙やアルミニウムなどでできたパックに魚の切り身をはさみ、電子レンジで3分前後調理する。時間を調整することで、焼き色もつく「こんがり焼き」と、やわらかな「ふっくら焼き」が選択できるようになっている。続けて調理する場合は1パックで2度使える。
スピーディーな調理と後片付けの簡単さが受け、2009年9月に発売すると3カ月で100万個を突破、小林製薬の日用品部門では異例の売れ行きとなった。3月からは一度に2切れが調理できる大判タイプや、鶏肉のから揚げタイプも投入し、レンジ調理に新風を吹き込んでいる。
開発リーダーを務めたのは、日用品事業部マーケティング部洗浄・家庭用品グループ開発企画担当の十田哲郎(46歳)。同グループが09年2月に開いた商品化のためのアイデア会議で、研究員が「このシートを使うと、うまく魚が焼けそうなんです」と提案したのが発端だった。
十田は早速、いくつかの魚の切り身を研究所に持ち込み実験した。疑心暗鬼の十田だったが、3分ほどチンすると「ほんまやな」と、感心した。シートは、冷凍ピザの容器の底部分などに使われているもので、ごく薄いアルミを高温にも耐えるPET樹脂でコーティングしている。
レンジのマイクロ波によってシートは、短時間で200度前後の高温になる。「魚焼きパック」は上下にこのシートを張り付けており、シートに接触した魚の身の部分が高温状態で調理される仕組みだ。
社内から寄せられるさまざまな「異見」
研究所での実験が終わると、十田はすぐさまインターネット調査でニーズを探った。魚焼き用グリルを持たない人が多い単身世帯を中心に関心が高く、「切り身」の調理に限定しても「行ける」と踏んだ。経営層の承認も得られ、商品化に着手した。ただし、もともとニッチ商品を得意とする小林製薬だが、さすがにこれまで調理器具を手がけたことはなかった。いざ開発を進めると、焼き具合や使い勝手の面などで問題が続出した。発売日は半年後に迫っていた。同社の新製品投入は春と秋の年2回であり、十田は「来春までは待てない。今年の秋に出します」と宣言していたからだ。
5月の大型連休中、十田はもっぱら自宅でハサミとカッターを使いながら試作に没頭した。加熱するシートの配置やパックの形状をさまざまに変化させ、技術担当に渡しては実験を繰り返した。魚の種類も生鮮品だけでなく塩もの、味噌漬けなどのバリエーションに対応できるようにした。