飯田:しかしこの労働管理のイメージが、強固なものとして残ってしまいました。AIからビッグブラザーが連想されてしまうのは、テイラー的な科学的管理法が非人間的なものだったという印象が強いからではないでしょうか。
でもそこにハピネスまでが入ってくると、管理の意味合いはまったく変わってきますね。サービス業やナレッジワーカーであれば、効率よりもアイデア創出に寄与しそうです。新しくて面白いことを思いつくことが、より重要になってくるのではないでしょうか。
矢野:従来は結びつかなかった要素を、新しい可能性で結びつけることが最大のクリエイションだと思うんですよね。自分自身の能力もそうですが、コンピューターの能力をどう活用するかが重要だと思いますね。
飯田:「AI 対 人」ではなく、AIで武装したAさんと、別のAIで武装したBさんの競争であるということですね。
矢野:ええ。だから「AI 対 人」という議論では、本質を見失います。どんどん活用する方法を考えればいいのに、そこで逡巡してしまうと危険です。そもそも、この流れは止まらないでしょうし。
飯田:早めに方向を変えた方がいいでしょうね。あらゆるビジネスで先行者利益がますます大きくなっているので、日本も乗り遅れると厳しい状況になるでしょう。
AIを活用する、あるいは開発する側に回るとして、今のビジネスマンに足りていない能力はなんでしょうか。先生から見てもう少し学んでほしいと思われるものはありますか?
矢野:実際にAIを活用して、体験してみたらいいと思います。頭で考えてもわからないと思うんですね。AIの中身はある意味で驚くほど単純で、最小二乗法を大量に回しているだけですから。
飯田:統計に基づく提言を受けて、それをどう使うかに個人の能力が出るわけですね。
矢野:データからの回帰の限界と、その可能性を知っている人たちが増えてくればいいなと思います。個人の経験やコミュニケーションから判断される暗黙知、その領域を軸に作られる社会を最適化するために、有害なウイルスをはじき出す免疫系のような役割をAIが担っていく。判断するのはやはり人間の仕事なんです。