愛知県からは現在第一線で活躍中の映画監督がたくさん出ている。豊橋市出身の杉田成道は本来テレビドラマのディレクターの重鎮だが、そのテレビの代表作である一連の「北の国から」がなまじの映画以上におちつきはらった重厚な作品であることで、映画は競馬を扱った「優駿 ORACION」(1988年)ぐらいなのだが、映画人たちからも一目おかれて、日本映画テレビプロデューサー協会の会長になっている。
ヒット作が多いのは名古屋市出身の堤幸彦監督である。いちばん当ったのは「20世紀少年」三部作かな? 作品としての出来では中年で認知症になってゆく男の悲しみを渡辺謙が演じた「明日の記憶」(2006年)だろう。やさしいタッチが良かった。
やさしいタッチと言えば、一宮市出身の松岡錠司監督は生新な青春映画で注目されていたが、いまではすっかり情味のあるおちついた作風のベテランだ。「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン」(2007年)が代表作だろう。
いまや青春というものを一ヒネリも二ヒネリもした面白い角度から扱うことで一作ごとに注目のマトになっているのは山下敦弘監督である。新しいタイプのヒッピー映画と言うべき「どんてん生活」(1999年)から現代の女子高生映画「リンダ リンダ リンダ」(2005年)など。
豊川市出身の園子温(その・しおん)は監督としてのキャリアは長い。学生時代に8ミリ・フィルムで作った「俺は園子温だ!」(1985年)などで個人映画作家として一部に知られたが、長い間、もっぱら難解な短篇を作っていて、世界的に知る人ぞ知る存在だった。それが近年、突如として普通に分かる映画を作るようになったのでびっくりしたものである。最新作の「愛のむきだし」(2008年)は3時間を超える長尺。やっぱりナミの監督ではない。
俳優では名古屋市出身の玉木宏がこのところいい役が相次いでいる。「真夏のオリオン」(2009年)では潜水艦の艦長。無駄な死に方はしないというしっかりした信念を持っている軍人で、正統二枚目としてのやさしさと、戦うべきときには果敢に戦うキリリとした戦士ぶりとをこもごも鮮やかには演じている。「のだめカンタビーレ」ではヨーロッパで活躍するオーケストラの指揮者。うーんとキザな役どころに親しみやすい愛嬌を盛りこんで見せたあたり、なかなかのものだ。
自分の恰好よさにテレているようなところがいいのが名古屋市出身の舘ひろし。もっぱら刑事役でテレビで活躍しているが、映画でも「あぶない刑事」をやっている。なんてったってポーズのしなやかさだ。
(次回は愛媛県)