フランスの電力供給が与える影響の大きさ
フランスでは、原子力発電所の蒸気発生器などの一部機器に炭素濃度が高い材料が使用されているため強度不足の懸念があるとして、原子力規制委員会が点検を命じた。2016年の第3四半期より臨時の点検作業が開始されている。いま、定期点検を含め合計58基(総出力6313万kW)中17基の原発が停止中だ。
2015年のフランスの発電量は5460億kWh。ドイツの5804億kWhに次ぐ欧州第2位の発電大国だ。原発の発電量が76%を占める原発依存度が高い国でもある。電力の純輸出量は欧州一の年間630億kWhだ。周辺国は英国を含め、ドイツ、イタリア、ベルギー、スペイン全てフランスからの電力を輸入している。表-1の通りだ。
原発の停止により、フランスの発電量は大きく減少した。9月の発電量は1998年以来最低の266億kWhまで落ち込み、輸出大国フランスが、電力輸出を行う状況から輸入を行わなければならない状況に追い込まれた。冬の気候次第ではフランスの電力供給は非常に厳しい局面になると予想されている。
フランスの発電量減少は、フランスのみならずドイツ、英国の卸市場にも影響を与えることになったが、さらに英国市場には泣き面に蜂の事件が発生する。ストーム・アンガスと名付けられた嵐が11月下旬英国を襲い、英国とフランスを結ぶ英仏海峡の海底ケーブル8本の内4本が破損したのだ。200万kWの送電能力は100万kWに半減し、復旧は2017年2月になるとされている。破損の原因は嵐を避けた船舶が下ろした碇によるものと推測されている。
高騰する英国の卸電力価格と逼迫する供給
フランスからの電力輸入に依存していた英国の電力市場もフランスからの電力供給量減少の影響を受け、卸電力価格は大きく上昇することになった。英国の卸電力価格は、ここ数年1MWh当たり概ね30から40ポンドで推移していた。1kWh当たり4.4円から5.8円だ。今年9月には卸市場価格は最高170ポンドまで高騰した。1kWh当たり24.7円になる。
その後も卸市場価格は40ポンド以上で高止まりしており、10月下旬にはまた100ポンド(1kWh当たり14.5円)を超えることもあった。独立系のガス・電力小売事業者は、発電設備を保有していないため高騰する卸価格の影響を大きく受けることになる。小規模事業者ゆえに先物による電力の手当も限度があったGBエナジーは供給停止に追い込まれたが、他にも供給停止に追い込まれる小規模事業者が出てくると報道されている。
英国では老朽化した発電所の閉鎖により2014年から2015年の冬にかけ、供給予備率が4%に落ち込むと予想された。一般的には最大電力需要に対し8%程度の設備能力の予備率が必要とされているので、かなり危機的な水準だった。
このため、電力ガス市場規制局は、既に供給を停止している発電所を緊急用予備電源として確保し、万が一の時には供給できる体制を整えた。今年の冬の予備率は1.1%まで落ちると予想されているが、この予備電源を含めると6.6%になり停電の事態は避けられる見込みと報道されている。