2024年12月5日(木)

World Energy Watch

2016年11月23日

 企業に勤務していた時に米国に駐在し、日本と欧州向けの石炭輸出を担当していたことがある。時々、東部の炭鉱を訪問することもあった。輸出元であったケンタッキー州の石炭会社の従業員と一緒に州東部の彼の炭鉱にドライブした時のことだ、彼から「道の両側の畑の植物を知っているか?」との質問があった。見たことがなかったので、そう答えたところ、意外な答えが返ってきた。「大麻草だ」。彼によると、石炭以外に産業がない地域なので生計のため大麻草を育てているという。当然違法だが、地元の警察も見て見ぬふりなので、道路の両側が大麻草畑になってしまった。

 ペンシルバニア、ウエストバージニア、ケンタッキー、オハイオ州は、アパラチア炭田の北部地域として知られるが、貧しい地区もあり、いわゆるプアホワイト(貧しい白人)も多い。例えば、ウエストバージニア州は白人比率が94%と高いが、平均収入の中間値は全米50州中下から2番目だ。州の主要産業である石炭業の労働者は炭鉱夫を含め圧倒的に白人が多いことも、白人比率の高さに影響しているのかもしれない。炭鉱でセールス担当のマネジャーだった知人は、奥さんが博士号を持つ高校の数学の教員だったが、その年収が炭鉱夫の半分もないと嘆いていた。石炭関係以外の仕事があまりなく、低賃金になってしまうのだ。

 このアパラチア炭田のいくつかの州は、米国大統領選では接戦州と呼ばれる共和、民主両党の票が接近する選挙結果を左右する州になる。特にオハイオ州は、全米の縮図と言われここで勝たなければ、全米でも勝てないとされている。炭鉱で働く人は生産量の減少に合わせて減り、今は10万人を切ってしまったが、資材、機械を販売する企業、石炭を輸送する企業など関連する企業で働く人は多い。合わせれば100万人と言われる。炭鉱の恩恵を受ける地域のサービス業の従業員を合わせれば、相当の数の票になる。

トランプの環境・エネルギー政策

 共和党支持者に信奉者が多い温暖化懐疑論の立場に立つトランプは、今回の選挙戦でもオバマ大統領が進めた温室効果ガスの削減を柱とする温暖化対策を全て見直すことを謳っていた。その最大のものは、国際的には温室効果ガス削減のため198カ国が合意し、11月4日に発効したパリ協定からの離脱であり、国内では石炭火力発電所の削減を狙ったクリーンパワープラン(CPP)の無効化だった。

 温室効果ガスの削減が必要ないとすれば、二酸化炭素の排出量が相対的に多い石炭の使用量を削減する必要はない。オバマ大統領は共和党が支配する議会の協力を得ることなく石炭使用量を削減することを狙い、環境保護庁の大気浄化法を利用し同庁が各州に対し二酸化炭素の排出削減を求めるCPPの体制作りに成功した。

 実行に際しては共和党知事の州からの反発に合い、訴訟が起こされたため司法の判断を仰ぐことになったが、司法の判断にかかわらずトランプはCPPの無効化を図ることになるだろう。その具体的な方法については、推測するしかないが、大気浄化法の修正、環境保護庁の体制を縮小し、実務的に対応不可能にするなどが考えられる。

 司法の場でも、政権末期にあったオバマ大統領が指名できなかったため現在空席になっている最高裁判事に保守派を指名することは確実であり、最高裁の構成を保守派5、リベラル派4とすることにより、CPPに対し否定的な立場の司法を作り出すことになる。


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