トランプは米国のエネルギー自給率を100%にすると主張している。米国がサウジアラビアを抜き原油生産量世界一に、ロシアを抜き天然ガス世界一になり、図-1の通り昨年自給率が90%まで向上したのは、爆砕法を利用したシェールガス・オイルの生産増によるものだ。環境団体から批判を浴びることのある爆砕法については引き続き利用し、生産量の増加を目指す立場だ。さらに、トランプは石炭の復活を訴えていた。今回の選挙戦ではその路線が成功し、脱石炭を主張したクリントに勝ちアパラチア炭田の接戦州を制したようにも思える。
オバマとは戦略を変え敗れたクリントン
石炭産業では、経営者は共和党支持、炭鉱夫、特に組合員、は民主党支持だった。オバマ大統領の1期目から温暖化問題への取り組みに焦点が当たり、化石燃料、なかでも二酸化炭素排出量が多い石炭への風当たりが強くなりはじめた頃から炭鉱夫にも共和党支持が増え始めた。
しかし、2012年の2期目の大統領選では、オバマ大統領は石炭支持を打ち出す。共和党の候補者だったロムニーも同様に石炭支持を打ち出し、泥仕合の模様になった(「オバマとロムニーの石炭戦争」)。選挙前には、必ずしも石炭支持ではなかった2人の候補者が共に態度を変えたのは、接戦州の石炭関連票のためだったのだろう。その結果、オハイオ、ペンシルバニア州はオバマが制することになった。
今年の大統領選では、クリントンは、このオバマの戦略を引き継がなかった。地球温暖化対策のため再生可能エネルギーの導入を訴え、疲弊していく産炭地対策としては、補助金によるインフラ整備、雇用創出、退職した炭鉱夫への年金維持などを打ち出した。もはや石炭の復活はないとの宣言に等しかった。二酸化炭素の補足・地中固定化(CCS)の利用が進めば石炭消費の減少に歯止めがかかるとの見方もあったが、クリントンの政策を見る限り、コストが高いCCSへの期待もないようだった。
オバマとは異なり、反石炭の立場を鮮明にしたクリントンは接戦州での戦いに敗れることになった。オバマが勝利したオハイオ、ペンシルバニア州を失ったが、両州においてクリントンが勝利していれば、トランプ大統領は誕生しなかった。各州の石炭生産量と8年、12年と16年の大統領選での民主党の得票率が図-2に示されている。