先生 「凛くん、何でそう思ったの? 今までいろいろ一緒にやってきた仲間だよね。何で“いなくなればいい”って思ったの?」
凛 「・・・」
先生 「泣かないで。先生、凛くんが思ったことを知りたいの」
―子どもたち、2班の周りに集まる―
悠 「凛、俺に言ってみな。(耳を近付ける) ―わかんない・・・」
歩希 「たぶん、萌ちゃんいろいろ言うから話し合いが長くなって、お弁当食べたくなったんだと思う―」
子どもたち 「そうなの?」
凛 「悪いこと言っちゃったなって思ってる・・・」
先生 「凛くんさ、お腹すいてお弁当食べたくなっちゃって、そしたら萌ちゃんがいろいろ話すのが、やだなぁって思ったの?」
凛 ―うなずく。
先生 「それなら“お腹すいたよぉ。話し合いはまた後にしようよ”って言えばいいんだよ。凛くん、考えてごらん、萌ちゃんが本当にいなくなっちゃったらどう思う? それにさ、自分が仲間だって思ってる相手から“おまえなんて、いなくなればいいんだ”って言われたら、先生だったら、辛くって、悲しくって、どうしようもないと思うな。萌ちゃんだって“仲間だ”って思ってる凛くんから、そう言われてすごく辛かったと思うよ」
凛 (萌ちゃんに向かって)「ごめんね」
萌 「いいよ」
子どもたち 「あ~、良かった、良かった」
「なんかお腹すいちゃったねぇ」
「ねぇ先生、お弁当にしない?」
先生 「―そうだね、そうしよっか。じゃ、お弁当―!」
電車ごっこの話し合いは途中で終わってしまいましたが、このようなことをみんなで話ができて良かったと思っています。
言葉の使い方がわからないことから起きた今回の問題ですが、それをそのまま放っておけば、本人がそれとは気づかないうちに、言葉と気持ちのギャップが生じ、そしてそれが知らず知らずのうちに仲間を傷つけていくでしょう。
今、世の中では盛んに“いじめ問題”がとりざたされていますが、親や教師、大人たちが導いてやらなければ、子どもの心は育たないのではないかと思うのです。
今回のことで、私が“この子たちは、心がちゃんと育っている”とうれしく感じたのは、子どもたち同士がお互いのありのままを見て、受け入れ合っているところでした。それぞれ、いろいろな側面をもっているけど、それが自分たちの“仲間”なんだ―子どもたちの中に、そのような深いつながりを感じたのです。表面的な“仲良くしなくっちゃダメなんだ”ではない絆を―。だからこそ、「萌ちゃんなんて―」と言ってしまった凛くんに対しても、子どもたちは真正面から向き合い、凛くんの気持ちを探ろうとしたのだと思います。
本当にいい仲間たちです。一人ひとりを大事に、そしてこの関係を大切にしていこう、と改めて心から思った出来事でした。 風2組 学級通信「麦」より
役割が多く、複雑な「電車ごっこ」の反省会。当然、話し合いは長くなる。そんな状況の中、語彙不足が原因となって、悪気なく起こってしまった事件。しかし、それを受け流してしまうのではなく、先生はこれを機会とばかりに子どもに向き合う。「悪気はなくても言葉の使い方を間違えば相手を傷つけてしまうことがある」という大切なことを真正面から教えていく。もちろん、これは「電車ごっこ」に限った話ではなく、風の谷幼稚園の毎日のあらゆる活動に見られることだ。こうして子どもたちの心は大きく揺れ動き、心が通じ合う原体験と仲間との本当の絆を手に入れる。
「幼児期にこそ心が育つ」。
「幼児期にこそ心を育てなければならない」。
この信念は、あらゆるカリキュラムにおいて息づいているのである。
※次回の更新は、4月15日(木)を予定しております。
風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。
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