これは展示技術なのだと、だんだん気がついてきた。中心にあったのは3対の青銅器で、それぞれを収めた四角いガラスケースを、3つ寄せた星形の一体にして、全体から1つ1つまで、ぐるりと回って見られるようにしている。ライトは基本的に上からだけど、部屋の天井からはコードも何も来ていない。ケースはガラスだけで支える柱はないが、そのガラスの角の合わせ目にコードを埋めて、ケース上部の光源まで伸ばしている。下からの補助光にも細心の配慮をしていて、これはオリジナルのケースだそうだ。
展示ケースの中のベース照明はすべてLEDで、聞くとこの館全体の展示では8万個のLEDが使われているそうだ。展示品ごとに、それに適したオリジナルの工夫があるという。展示にかかわる隠れた配慮によって、見る方の気持がふくらみもするし、縮みもする。そのことをつくづく感じた。
美術館の建築設計は隈研吾氏で、構想から10年、その間建築家と美術館のスタッフを含めたチームで、国内や海外の美術館を視察し、耐震設備や収蔵施設、展示技術などを見て回ったそうだ。建築家の案を基に、毎週ケースデザイナー、照明デザイナー、建設会社、それと当館の学芸員とで、記録に残っているだけでも91回の会議をしている。とくに現場学芸員の要望は根気よく相談して飲み込んでもらったそうだ。それだけ時間をかけられたというところに、この美術館の底知れぬパワーを感じる。
コレクションの多くは、初代根津嘉一郎が蒐集したもの。東武グループを築いた実業家だ。かなり豪快な買い方をしていたそうだ。中国の殷〔いん〕の時代の青銅器が、海外に安く売られそうだと聞いて「美術報国」の心によってそれを買い求めたという話は、ただの趣味以上のある志を感じる。
あるいは2階の通路に番外的に展示されている中国清の時代のからくり仕掛の「宝飾時計」。高さ1メートルほどの金ピカが3つあったが、これは中国を旅行中の電車の中で売りに来たのを買ったというから凄い。いまは3つ並んでいるが、もとは20個近くもあったそうだ。今回コレクションを再検討して、これはどうしても全体の流れから外れる。そこでクリスティーズのオークションに大半を出したら、数十億円もの高額で売れた。建設費にずいぶん貢献したというから、その売り買いの時間差自体も豪快だ。