2024年12月23日(月)

したたか者の流儀

2017年1月27日

 本当の話か、嘘の話なのかよくわからない。すべて嘘でも示唆に富んでいるのであえて一つ。こんな話が好きであった恩師の受け売りだとだけ断っておく。彼もどこかで仕入れた話に違いない。時は明治初年、処は今でいう関内あたり。当時まだ仇討ち禁止令が出ていなかった。馬車道に邏卒が3人、行き倒れか仇討ちで討たれたのか、はたまた返り討ちなのか死体を検分中であった。

 そこに、上陸したばかりのフランス商館の書記が大声で話しながらのぞき込んだので一悶着となった。周りの人間は、第二の生麦事件への発展を期待しながら固唾を飲んで見守っていた。

 尻をつき出して検死の邏卒に、「ケスクセ?」(なんですか?)と、仏人は声を発した。邏卒はとっさに「なに、本官の尻が臭いと!」。仏人は、今度は「ケスキリヤ」(どうしました?)とのたまった。邏卒はもうたまらない「本官の尻を切れと!」だと、と怒鳴って、サーベルに手をかけた。

 そこで、検分を統括していた一等邏卒が、怪しいフランス語で一言二言、同時にサーベルに手をかけた部下も押さえた。仏人は「メルシー、オーヴォアー」と、一等邏卒は「アーバーよ」

 横浜あたりでは、物があることを「あるじゃん」ないことを「ないじゃん」と言うが、同様にフランス語でマネーのことをアルジャンというので、金がないのでないナイジャンが語源だというのだ。

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 学校の模擬会話クラスより現場は強い。見本は昔横浜、今河口湖だ。ただし、明治とは違って金髪青目に混じって多くのアジア人が富士の麓にやってきている。河口湖近辺で機会があったら、振りをして英語で立ち食いそばを注文してみるといい。ワンキチュネとかいって。君の数倍上手な英語で応対してくれる。

 そんなこんなで、いつのまにか、東京に来た外人の多くは河口湖駅周辺にやってくることになってしまった。必要は発明の母。この町では英語がないと生きて行きにくい。青木ヶ原の真ん中で、外人客しかいないバスを運転することを考えてみよう。ともかく、英語で何か言わなければたいへんなことになる。結果、数回の赤面場面は誰しも経験している。後は学習効果があるかどうかだ。みんな何年も英語は勉強している。英語が通じないのは、恥ずかしいので大きな声で話さないで、そもそも相手に聞こえないのだ。そのうち外人客の知りたいことは類型化出来ることに気がつく。

 町中がその簡単なルールに気がついて誰でも多少は英語が出来ることとなってしまった。お陰で、外人客もディープな富士山麓体験をこなし、世界中に英語で体験談をばらまき中とみた。したがって、あとからあとから春夏秋冬外国人観光客が河口湖を目指してやってくる。

 冬外人客のいない河口湖を考えて見よう。雪の日は閑古鳥だろう。ところが、シンガポール、マレーシア、香港からのツーリストは雪でむしろ大はしゃぎとなる。全天候観光地の完成だ。そこまでくると、その先は知恵者の出番となる。河口湖駅のバス停で驚いた。この小さな駅舎まえから、飛騨高山行のバスが毎日運行されているのだ。5000円ほどで外国人観光客の人気スポットに直行できるというのだ。


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