IoTという言葉が浸透して久しく、CESなどの家電ショーでも各家電メーカーだけではなく自動車メーカー、コンピュータメーカー、ソフトウェアメーカーなども「コネクテッド・スマート・ホーム」をテーマにしている。
では実際にIoTはどこまで浸透しているのか。2017年にラスベガスで開催されたCESの中のパネルディスカッションで、リサーチ会社のパークス・アソシエーションが具体的な数字と今後の見通しについて発表した。
パークス社の調査は「ブロードバンド・コミュニケーションを持つ米国の家庭」を対象とした定期調査だが、それによると2016年の第四四半期(10-12月)で、対象家庭の26%がなんらかのスマート・ホーム・デバイスを持つという。これは2015年同時期との比較で19%の増加となり、今後のスマート・ホーム・プロダクトやサービスに拍車をかける数字だ。
さらに2014年と比較すると、スマート・ホーム・デバイスは13%から26%とほぼ倍増している。この結果から、パークス社のステュアート・サイクス社長は「2020年にはスマート・ホーム・デバイスの売り上げは5500万件に達する」と予測する。
ただし、現段階ではまだIoTを普及させるための「シルバー・バレット」、すなわちキラーコンテンツは存在しない。サイクス氏は「IoTはある時一気に普及するのではなく、徐々に人々がIoT導入のメリットに気づくことにより、裾の広い普及を見せるだろう」という。現時点で最も期待されているのはセキュリティ、省エネ、便利さの追求、といった分野だ。
一方でパークス社の調査対象がブロードバンドを持つ家庭に限定されているように、普及の障害となるのはインターネットのインフラだ。IoTは高速インターネットの存在無しには実現できない。しかし米国でさえ2015年の時点でインターネットコネクションを持つ家庭は全体の91.1%、うち100Mbps以上の高速ネットを持つ家庭は11.9%、25-100Mbpsが35.5%、10-25Mbpsが23%、3-10Mbpsが15.3%、3Mbps以下の速度も5.5%となっている。(米FCCレポートより)ほとんどの大都市部では人々は高速インターネットを選ぶ選択肢があるが、広大な中西部などでは選択肢そのものが存在しない、という情報の格差も米国には存在する。
音声コマンドの普及
今回のCESで目立ったのは音声コマンドの導入だ。アマゾン・アレクサ、マイクロソフト・コルタナ、グーグルのOK! グーグルなどが代表的なものだが、声を発するだけで家中の家電あるいは車を操作できる、というのは消費者にとって非常に魅力的な動きとなっている。
ただし、コムキャスト社のダニエル・ヘルスコビッチ氏は「消費者にチョイスを与えることも大切だ。音声コマンドの他、スマホをタップする、テレビのリモコンを利用する、ウェブブラウザを通して行うなど、消費者が最も使いやすく便利と感じる方法を提供することが普及につながる」と指摘する。
また、IoTは独立した技術ではなく、消費者がすでに持っている製品、つまりホームセキュリティサービス、ワイヤレス、ブロードバンド、有料テレビなどといかに連携し、消費者にとって「価値がある」付加サービスを提供できるかが鍵となる、というのはオンプロセス・テクノロジー社のカレン・コッシュ氏。アレクサを導入し、テレビやエアコンのスイッチを入れることが出来ても、ホームセキュリティの解除ができなければ消費者は不満を感じるだろう。全ての機器を管理できるプラットホームの構築が急がれるのはそのためだ。
最後に、IoTの普及は現在技術的な側面が語られがちだが、コア・テクノロジーとして欠かせないのがAIであり、特にプレディクティブ・データ・アナライズが非常に大切となる。消費者が何を求め、何に価値を見出すのか、というデータ分析こそが、将来のIoTプロダクトの動向を決定づけメーカーに「正しい方向性を持つ製品」を生み出させる原動力となる。
家庭内の家電などと車、ブロードバンドネットワークを組み合わせることは無限の可能性を秘めている。しかし同時にデータ流出というセキュリティの問題も浮上している。コネクテッドな社会は便利な反面、どこかのネットワークがダウンすれば全てがシャットダウンする、という危険性も持つ。こうした問題に対応するためには、業界の壁を超えた安全なシステム作りが何よりも優先されるだろう。