IoT、AIなどの発達により、業界の差異というものがどんどん失われていくが、今回のCESでもそれを象徴する2つのプレゼンテーションがあった。
1つ目は、CESでスポーツ業界として初の基調演説を行ったアンダーアーマー社のトム・プラットCEO。アンダーアーマーは創業わずか20年で世界のスポーツ用品企業としてトップ3に成長した。その存在はナイキをも脅かし、テニス男子世界1位のアンディ・マリー、水泳界のスーパースター、マイケル・フェルプス、米アメフトの歴代最高のQBと言われるトム・ブラディなど、数多くの選手と専属契約を結んでいる。さらに2020年には米MLBの公式ウェア会社となり、全てのMLBプレイヤーがアンダーアーマー社のユニフォームに袖を通すことになる。
スポーツウェアとIoT、AIといえばやはりウェアラブルで、アンダーアーマーも通信機能のついたシューズ開発に力を入れてきた。会場に登場したマイケル・フェルプスはアンダーアーマーのコネクトデバイス付きシューズでのトレーニングを紹介、「もっと早くこのような技術があればもっと記録を伸ばせていたかも」と語った。
また、「map my fitness」「endomondo」「my fitness tub」というスマホアプリを開発、日々の運動の記録管理を行える工夫も同時に提供している。この技術にはIBM、サムスンが協力関係にある。アプリからは顧客データが集約されるが、プラット氏はよく言われる「データ・イズ・ニュー・オイル」という言葉を使い、世界中から集められるデータを分析することにより、新しい製品や技術開発に役立てられる巨大データセンターも独自に作り上げている。
アンダーアーマーで特筆すべきは、同社の本社がメリーランド州ボルチモアにある、という点だ。ボルチモアは全米の犯罪率でも1、2を争い、かつての栄光が去った巨大な廃墟と化す寸前の都市として知られる。しかしプラット氏は港湾部分の元工場や倉庫を買収、巨大なキャンパスを設立した。
同社には現在1万5000人の従業員がいるが、プラット氏は彼らを従業員ではなく「チームメート」と呼ぶ。ブランドとは商品ではなくカルチャーであり、ボルチモアに巨大なエコシステムを作り上げることで街全体の再生にも協力している。さらにボルチモアが誇る名門大学、ジョンズホプキンスの医学部との提携により、「健康であるためのより良い眠り」についての研究を進める。
その成果としてCESで発表されたのが、アンダーアーマーによるスリープウェアだ。バイオセラミックを内側に貼り付けることで遠赤外線を発し、体温を一定に保つことで深くリラックスした眠りが得られる、という。