2024年4月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月25日

 トランプの他の発言同様、「米国の核戦力を強化すべし」の発言の真意は明らかではありません。トランプがしっかりした核戦略を持っているとは考えられません。しかし、核についての最近のプーチンの動きを考えると、「米国の核戦力を強化すべし」とのトランプの発言は的外れとは言えません。

核戦力を強化するプーチン

 すなわち、プーチンは、近年核戦力の強化に努めています。まず1987年に米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約(いわゆるINF条約)に違反して、地上発射型の中距離巡航ミサイルを実験し、すでにエストニア国境付近のルガに配備されたとも言われています。さらに注目されるのが、一発でフランスやテキサス州に匹敵する領域を焦土と化せる超大型ミサイル「RS-28サルマト」の発射実験に成功したと報じられたことです。このミサイルは米国が開発を進めている弾道ミサイル防衛で迎撃が困難と言われ、ロシアによる米国に対する核攻撃が可能になるといいます。

 そのうえプーチンは近年核の脅しを繰り返し、核の使用をほのめかしています。プーチンは2015年3月、クリミア危機の時に核の使用の準備をしていたことを公に認めたといいます。また、2014年から15年にかけて、ウクライナへの侵攻時に合わせるように、核の使用も想定した演習を何回か実施しています。いざとなれば核の使用も辞さないことを明らかにすることで、核の脅しの効果を高めようとしているのでしょう。

 これらのプーチンの動きは、核の基本的意義は抑止で、核を軍備管理の対象とするというこれまで米ロ間の了解に挑戦するものです。特に核の脅しを繰り返し、核の使用をほのめかしていることは、核の使用についての従来の敷居を下げる危険な兆候です。

 欧米は、プーチンのこのような危険な核戦略を座視できません。何らかの対抗措置を講じるべきであり、「米国の核戦力を強化すべし」とのトランプの発言はこの文脈で考えると意味を持ってきます。

 社説は、「核兵器がテロリストの手に渡ることを阻止するなど、核兵器がもたらす危険を如何に軽減するかに焦点を当てるべきである」と言っていますが、これは核兵器を従来の米ロ間の了解の延長線上でとらえているもので、最近のプーチンの核戦略に照らして考えれば、適切な提言とは思われません。

  
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