2024年11月5日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月19日

 イラン分析家(在ブリュッセル 国際危機グループ イラン担当上席アナリスト)のヴァエズが、12月18日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説で、イランとトルコはシリア問題などで衝突に向かっているが、共通の立場を見出し協力することにより中東の安定と安全に貢献すべきだ、と述べています。要旨、次の通りです。

(iStock)
 

 今日のトルコとイランの競争は古いパワー・ゲームの再現である。メソポタミア(イラクとシリア)の支配を巡って彼らの先祖であるビザンティンとペルシャは戦ってきた。しかし、両国はスンニとシーアの大国としてイラク、シリアの宗派戦争に関与することにより、衝突に向かっている。両国が夫々の力を如何に展開し、相互の相違を克服できるかどうかは中東の将来にとって極めて重要である。

 トルコがシリア、イラクで軍事的関与をするのはイランがトルコの歴史的勢力圏(特にアレッポ周辺とトルコの南方国境に近いモスルでの)を徐々に包囲していることへの対応である。またそれはシリア・クルド民主連合党PYD(トルコの仇敵PKKと連携する)の阻止を狙ったものでもある。トルコの支援を得てシリアの反政府勢力は南方に進展している。8、9月にはトルコ国境の町ジャラブルス、アルライ、ダービクからISを追放した。彼らは現在アルバーブ(ISが支配する戦略的な町)に入ろうとしている。米の支援を受けるPYDは東側から入ろうとしている他、シリア軍とイランと連携する軍が南から入ろうとしている。

 両国の間で摩擦が高まっている。イランは、トルコがネオ・オスマントルコの野望、地域の親トルコのスンニ勢力を拡大したいとの野望を持っていると考えている。またイランは過激派がトルコを通ってシリアに入り、トルコが兵站・財政支援をしていると非難する。

 トルコは、イランが古代ペルシャ帝国のシーア版を築こうとしていると主張する。2015年3月にエルドアンは、イランがISと戦うのは自分の支配地域の拡大のためだと非難した。トルコはイランがアサド政権を守るためにレバノン、イラク、アフガニスタンのシーア民兵を動員しており、それが宗派対立を激化させているとする。

 両国はISの打破やシリアのクルドによる自治権拡大阻止といった共通利益を築いていくことを試みてきたが、具体的な合意はできなかった。両国は相互の核心的利益と安全保障上の懸念を認め合わねばならない。

 両国はイラク、シリアに関する高位の交渉チャンネルを設置すべきだ。エルドアンとハメネイはそのために個人代表を指名すべきだ。更に双方は諜報を共有し、勢力圏が衝突する場合は緊張緩和のために調整するなど協力と信頼を向上する方途を見つけるべきだ。第一歩として、イランは、イラク北部のニネベ州でのシーア派民兵を抑制し、それと交換にトルコは当該地域から装甲車その他の武器の引き上げに同意することを提案することが考えられる。米ロはこれらのステップに支持を与えるべきだ。

 長い平和的関係の歴史を持つ両国はこれ以上不確実な世界に引き込まれるべきではない。共通の立場を見出すことにより中東の安定と安全に貢献すべきだ。

出典:Ali Vaez ,‘Turkey and Iran’s Dangerous Collision Course’(New York Times, December 18, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/12/18/opinion/turkey-and-irans-dangerous-collision-course.html


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