2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年5月19日

 中国の外交関係者は、「その発言をしたのは李克強(党中央政治局常務委員、国務院副総理)ですよ」と語る。

 「今回の訪問でも、やはり慣例に従い共産党の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員9人が首を揃えて歓迎したわけですが、事前の調整段階では党の指導部で外交を担う李克強が『もうそろそろ、そんな時代錯誤の応対をするのはやめたらどうだろうか』と発言しているのです。これは実はみな、喉から出かかっていた言葉ですから、内心拍手を送った人が多かったのではないでしょうか。というのも対北朝鮮に限らず、いまは胡錦濤国家主席の外国訪問でも、いちいち現地の華僑や華人、留学生を動員して国旗を持たせて歓迎するといった演出はもうやめるようにという通達が各地に届けられたほどですから。

 ただ、北朝鮮の場合には、最終的にはやはり従来通り9人がそろって応対しただけじゃなく、従来以上のもてなしとなったのですがね……」

とはいいつつも、やっぱり金総書記を厚遇した中国

 事実、金総書記が丹東入りした時点で、中国は李克強と王家瑞党中央対外連絡部部長を派遣して歓迎。天津では、やはり政治局常務委員の一人である賈慶林が出向き、さらに五日晩のレセプションでは胡錦濤国家主席、温家宝総理以下9名全員が顔をそろえるという豪華な内容となったのである。

 「警備も相変わらず一級警備体制〝加強〟というレベルで、過去には日本の天皇やアメリカ大統領と同等のレベル」と治安関係者は語るが、その一方で歓待された北朝鮮もまったく中国側に気を許していなかったという。

 「北朝鮮は金総書記の便から健康状態を知られるのを嫌い、わざわざ高性能の分解剤を持ち込み、徹底して便を分解していた」というのだ。

二枚舌を駆使し北朝鮮と距離を縮める中国

 金総書記を最高の警備と歓待で迎えた中国だが、この訪問で彼らが得たのは6カ国協議への参加の〝意思〟という極めて曖昧な結果だけだった。そもそも中国は6カ国協議へ北朝鮮が戻ってくることを重視する一方で、6カ国協議が朝鮮半島の問題を解決できるとは考えてはおらず、西側へ見せる顔とは別の独自の外交を展開し北朝鮮との距離を縮めている。国際社会の基本でもある二枚舌を駆使し、外交が備える二面性を見事に結実させた訪問となったのである。

※次回の更新は、5月26日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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