2024年12月23日(月)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年3月9日

 米ソの対立という冷戦が続く中で、アメリカの大統領がこうした考えを持ち、慎重な政権運営をしていたことは世界にとっても幸運だったと言わざるを得ない。記者会見で、ある国際問題に関連して核兵器を使う可能性について質問された時のアイゼンハワーの答えも印象的だ。"No, you can't defend anything with nuclear weapons"「使うつもりはない。核兵器ではなにも守れない」。

 アイゼンハワーはそして、大統領としての最後の演説に、肥大化する軍需産業が政治や経済を支配しかねない危険性に警鐘を鳴らした。軍需産業は多額の資金を投じた広告を通じて、ソ連に比べ核ミサイルの配備で出遅れており、もっと軍拡して対抗すべきだという国民の恐怖心をあおり、政治家にも圧力をかけている。アイゼンハワーはそうした事態を憂慮していたという。それが杞憂ではなく、現状でも軍需産業と政府の不透明な関係があるとも本書は指摘している。

 In 2008 the Government Accountability Office found 2,435 former generals and senior officers employed by 52 large defense contractors—some working on the same contracts they oversaw while in service. This revelation led Congress to pass a law requiring the Pentagon to maintain a database of high-ranking military officials who pursued jobs with defense contractors. But according to a 2014 Washington Post investigation, the Pentagon failed to do so, calling the law “an unfunded mandate.”

 「政府監査院は2008年、軍の元将校ら2435人が、大手の防衛産業52社に再雇用されていることを明らかにした。軍で現役だった時に担当だった分野と同じ防衛企業で働いていた例もあった。この調査結果を受け議会は新法をつくり、軍の高官たちが防衛産業に再就職した事例を管理するデータベースの作成を国防総省に義務付けた。しかし、2014年のワシントンポスト紙の調査報道によると、国防総省は予算措置が講じられていないという理由で、そうした対策を実施していないという」

「物腰は柔らかく、行動は力強く」

 メディアとの対立を深める一方のトランプ大統領だが、アイゼンハワーはメディアの役割を尊重した。本書によると、1955年にアイゼンハワーが記者会見にテレビカメラを入れることを認めたのが、大統領会見にテレビカメラが入った最初の例だという。さらに、アイゼンハワーは大統領に就任した最初の年に、33回もの記者会見を開き、2期8年の間、同じ頻度で記者会見を開いたという。ケネディ大統領でも最初の年には18回しか会見を開かず、オバマ大統領も平均で年7~8回にとどまった。アイゼンハワーの功績を振り返る本書は、結びの部分で当然ながら新たな大統領への教訓も記している。


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