大人の在り方が子どもの未来を決める
人には誠実に、物事には勇敢に。
そして、志を持って、人のために役立つ人になる。
これは天野園長が若い先生たちに向かって繰り返し語りかけている言葉である。冒頭の卒園児たちに贈る言葉を強くシンプルに言い表した、まさに風の谷幼稚園が育てようとしている人間像を端的に表現している言葉と言っていいだろう。そして、子どもたちを導く先生たちにも、それを求めているというわけだ。
実際に園長が先生たちに要求するレベルは極めて高い。この連載期間中、取材に伺ったとき、膝を突き合わせて園長から訓示を受ける若い先生たちの姿を何度も目にし、その厳しさに圧倒されてしまうことがしばしばあった。
「子どもにとって教師は社会を学ぶための強力な手がかりです。つまり教師は教材なのです。先生の子どもへの影響は想像を超えて大きいものがありますから、教師にはよりよい資質と、それを磨く謙虚さと誠実さを私は求めています。そして、妥協なく厳しい要求を教師にしてきているのが風の谷幼稚園でもあります。子どもを育てるということは、それだけ真剣でなければならないと考えているからなのです」(天野園長)
そして、この厳しさの陰には、園長自身の人間観や教育者としての覚悟が見てとれる。以前に行われた講演録には以下のようなコメントが記録されている。
~私は、子どもたちを“私たちの命を引き継ぐ命”と捉えています。そして、“乳幼児期に人間の芯ができる”と思っています。
ですから、乳幼児期の教育あるいは保育に当たるということは、「子どもの人生に大きな影響を与える仕事でありその責任は重い」のです。「子どもたちの人生に責任を持つ」覚悟がこの仕事には要求されていると思っています。
先に生きている者として、後に生きるものたちへ、生きるために必要な大事なことを教える教育施設が私にとっての幼稚園なのです。~
~21世紀は、夢と希望に溢れた時代になると期待していました。しかし、現実は20世紀の「つけ」を背負った重たい時代になっています。この現実の中を子どもたちはどう生きていくのだろうかと考えれば考えるほど明るい気持ちにはなれないでいます。
しかし、この現実を否応なく生きていかざるをえないのが、子どもたちなのですから、それなら 自らの手で、夢と希望につながる価値観を生み出し、この流れを変えていく力を子どもたちの中に育ててやることが、私たちの責務ではないかと思うようになりました。
幼稚園で過ごす3年間あるいは2年間という短い時間の中で、どこまでそれが可能になるかと思い悩むことはしばしばですが、しかし、すべての基本になる幼児期にかかわることのできる私たちなのですから、その可能性を信じて追求してきているのです。
資産も、資金もなくあるのは情熱だけ。そして、時代に逆行するような「スクールバスなし、給食なし、延長保育なし」。そのうえ、山の上。この条件では、「子どもは集まらない」と誰しもが思ったようです。しかし、風の谷幼稚園はできました。子どももいっぱいです。
だから、どんな困難も、知恵と勇気を持ってすれば可能になります。必ず、思いを共有できる仲間がいます。