2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年6月2日

 こうした腐った事態を懸念したのが胡錦濤国家主席だった。4月6日、自身の指導理念「科学的発展観」の学習・実践を総括する大会で演説し、幹部たちに異例とも言える指示を出した。

 「絶えず権力、金銭、美色(美女)の誘惑に用心しろ」

 権力をひけらかす高級幹部に対し、企業家が金銭や女性を通じて接近するのは中国ではありふれた話。最高指導者が「美色」に言及してまで警鐘を鳴らすのは異例の事態だが、「天上人間」の内側を見れば、胡主席の怒りもうなずける。

 話を冒頭の「5色収入」に戻すが、「天上人間」を代表とする夜総会で流れる札束は、「黒色」と「灰色」がほとんどだ。ここに入り浸る政府高級幹部の代金は当然、企業経営者が支払うわけだが、その金は事実上の賄賂であり、高級幹部が愛人やホステスに払う諸費用も企業側が肩代わりしている可能性が高い。

 大企業がビジネスで得た収入を、労働者たちの給与などとして「白色収入」という適切な形で使うのではなく、政府高級幹部に対する「黒色」「灰色」収入として地下に潜っていくというのが、中国社会の隠れたルールなのだ。

10人が自殺した「血汗工場」

 社会を揺るがしているもう一つの事件が、「富士康」(フォックスコン)事件。米アップル「iPhone」の生産も請け負う台湾系の大手携帯電話機メーカー・富士康の深圳工場で今年1月以降、13人が相次ぎ自殺を図り、10人が死亡したのだ。

 自殺を図ったのは10代から20代の農民工(出稼ぎ労働者)で、深圳市政府報道官は、「『80後』(1980年代生まれ)や『90後』(90年代生まれ)は、社会経験が乏しく、試練を経験しておらず、心理状態も脆弱で、感情的なもめ事や環境の変化、仕事や生活の圧力を調整できない」と事件の背景を語ったが、それだけではない。

 深圳工場の工員は約45万人に上るが、湖北省から来た女性工員の話として中国の通信社・中国新聞社電が伝えたところによると、午前7時半から夜7時半まで働き、月給は900元。残業代などを合わせても月1500~1800元にすぎない。

 台湾の親会社・鴻海精密工業の郭台銘会長は「自殺は、個人の生まれ持った個性や感情に関係するもので、工場の管理は問題ない」と強調したが、軍隊式の厳格な管理下でロボットのように扱われる若者たちの精神的限界が来た、との見方が強い。工場と宿舎だけという管理された生活を強いられ、人生の価値を見いだせずに命を絶った結果とみられている。

格差に基づく成長モデルの限界に目を向けよ

 内外メディアはこの工場を「血汗工場」と呼ぶが、まさに労働者の血と汗で得られた「血色収入」が、「世界の工場」を支えている――。その一端が今回の事件だった。

 北京理工大学の胡星闘教授はこう提言する。

 「現在の中国では一部地方に『血汗工場』が幅広く存在している。富士康事件を教訓として中国は社会に対する企業の責任運動を展開するとともに、政府は労働者の人権を保護し、世界における中国企業のイメージ改善を行う決意しなければならない」


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