2024年12月15日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年6月2日

 北京市公安局の発表はこうだ。

 「4月11日から全市で『売淫嫖娼』(売買春)取り締まりキャンペーンを始動して以来、警察は149に上る売春組織を摘発したほか、違法行為のあった35店の娯楽施設のうち31店で売春行為が存在していた。さらに1132人の容疑者を拘束した」。天上人間を含めた4店の夜総会で557人のホステスが検挙されたという。

 天上人間は半年間の営業停止となり、筆者が5月16日夜に訪れた際もホテル側は「数日前に閉まった」と言うのみで、店自体は真っ暗だった。

特権の象徴 最高級の「天上人間」とは?

 1990年代後半に開業した「天上人間」は、ある種の「神話」となっていた。中国紙『南方週末』はこう伝える。

 「政商(高級幹部と企業家)が交流する舞台であり、『声色』(音楽と女)の場所を超え、『特権』の象徴だった」

 同紙によると、あるIT企業大物は毎晩8時から天上人間で遊んだ。「03年から04年にかけて彼を探したければ、天上人間の入り口で待っていれば会える」と言われたほどだ。「金銭と権力の交換を期待する人」にとって「昼間の事務所での会話は嘘で、夜総会こそ真の仕事場」だったのだ。

 北京紙『新京報』はこう紹介する。

 「『天上人間』への旅は5万元~6万元は必要」(1元13円)

 「数十万元を使うなんて普通のことだ」

 カラオケ付きの光り輝く豪華な部屋で、とびっきりの美人ホステスを横に座らせ、豪華な酒を飲みながら歌を歌うのだが、値段も「天上」だった。報道を総合すると、プレジデントルームは9800元、最も安い部屋でも3800元。さらに355ミリリットルのビールは70~80元、カクテル一杯200元、ウイスキー「ロイヤルサルート」は5000元という具合だ。

 ホステスへのチップ相場は500~1000元。さらなるサービスを必要とすれば、3000~5000元になるという。

 一方、ホステスの方も最高級だ。身長165センチ以上。学歴は大卒以上で、大学院生も少なくない。英語が堪能なほか、演劇・芸術系の有名大学に通う美女も多く存在した。「彼女たちの運転する高級車は30万元を下らない」という報道もあり、彼女たちの上昇志向も相当なものだった。

「美女に用心しろ」 警鐘鳴らした胡錦濤の怒り

 「天上人間に出没する人のうち約10%は北京CBD(中央ビジネス地区)に集まる世界トップ500の大企業の人間であり、残りの大部分は政府部門だ」と南方週末は指摘する。

 大手企業の経営者たちは夜な夜な、政府の高級幹部をここに連れて接待するとともに、美女をあてがうことで歓心を買い、ビジネスを有利に進めようとする。高級幹部たちを「女」と「金」で籠絡し、権力に接近するのが、社会主義国・中国において金儲けのために最も有効な手法だ。天上人間は、政財界に人脈を広げる闇の舞台だったのだ。


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