一方、南米アルゼンチンにも、「中国人の大波」が押し寄せ、異常事態が起きている。
09年7月、中国の国営メディア人民網は、「アルゼンチンの中国人経営スーパーが1日に9店も強盗被害に遭っている」と伝えた。
報道によると、現在(報道当時)アルゼンチンには約8万人の中国人が居住、中国人経営のスーパーの店舗数は7890店舗、売り上げは計40億ドル(約3820億円)にのぼる。そのうち、09年上半期だけで1929店舗もの中国人経営スーパーが強盗被害に遭った、とアルゼンチン中国人スーパー経営者組合が発表した。
平均1日9店舗が襲われている計算だが、ほかにも1万6877件の窃盗事件が発生している。しかし、襲われたスーパーの半数以上は警察に通報しないため、実際の被害件数は統計以上の可能性が高いとも伝えている。
なんと物騒な話かと思うと同時に、中国から見て地球の裏側にあるアルゼンチンにこれほど多くの中国人経営のスーパーがあることが空恐ろしい。ちなみにアルゼンチンは、人口3000万強の国。そのアルゼンチンで「公称8万人(実際はもっと多い)」、日に日に増え続ける中国人は「脅威」であろう。
なぜ、中国人、中国資本は襲われるのか?
アフリカの稿でも書いたが、「襲われる中国人、中国人資本」という現象はアルゼンチンに限ったことではない。06年、在外中国大使館が処理した事件は3万件にも上る。
治安のよくない地へ出ていく人や企業の数が多ければ、比例して事件に遭う可能性も高くなるといえる。しかし、中国人や中国資本が襲われる理由はそうした数の理屈だけで片付けられるものではないだろう。
ここで思い出されるのは、ダライ・ラマの言葉だ。
「アフリカやラテンアメリカなど外の世界へ飛び出し、それらの地の発展に貢献してほしい」
途上国に進出する中国資本や中国人が、現地の発展に寄与していると見えるなら、襲撃のターゲットにされる確率は低くなるのではないか。
もちろん、現地の発展のため懸命に努力していた日本人が現地人に襲われ、命を落とした事件も過去にある。とはいえ、尋常ならざる数字が示す「中国人襲撃」の事態はやはり、中国の海外進出のありように根本的な問題があることを表しているのではないか。
中国による植民地支配を受けているチベットの人々も口を揃える。
「(中国は)私たちの国を盗ったのですから、せめて私たちチベット人にとっての幸せを考えてほしいのです。そうすれば『チベットから出ていけ』とはいいません」
他人の国へ出て行って金儲けをしようというなら、最低限の節度と、現地の人々と協調し、現地の人々にも益となるよう努力する精神が不可欠だ。このことに目を向けない限り、世界中で中国人と中国資本が襲われるリスクは少しも減ることはないだろう。