中国が、中南米でばら撒く大枚のドルが、もとをたどればおもに対米輸出で儲けた金だということを考えれば、アメリカの忸怩たる思いはいかばかりか。そして、いうまでもなく、中南米でのわが国の存在感もまた薄れていく一方である。
人口250万のパナマに15万人超の中国人
中国の中南米での躍進ぶりが顕著なのは、資源国に限らない。数カ月前、米国サンフランシスコで会った現地在住の日本人ビジネスマンの体験談を紹介しよう。
最近中米のパナマへ出張し、空港でタクシーに乗ろうとしたら、「中国人はお断り!」と言われ、乗車拒否に遭った。「日本人だ」と連呼すると、「そうか、それなら乗れ」と運転手は態度を豹変させたという。
余談だが、北イタリア、ルーマニア、アフリカ某国でも、とにかく世界のあちらこちらの街角で、日本人が唐突に「中国人×▽※☆!」と罵倒され、「日本人だ」というと「あぁそう、ごめん」と相成ったとの話を最近よく聞く。
話を戻すと、資源求めての進出で中南米へ、というのはわかる。しかし、なぜパナマ?という疑問が当然湧く。が、特段の資源もない、人口約250万の国パナマでは現在、中国人在住者が全人口の7%に迫る勢いで増え続けている。
パナマは、20世紀初頭アメリカの支援によってコロンビアから独立した国だ。アメリカの狙いは、太平洋と大西洋を結ぶ運河の建設と利用にあった。独立後のパナマでは、アメリカによる運河建設が遂行され、完成後、パナマ運河はアメリカの太平洋進出に大いに寄与することとなる。
今もってパナマ運河が、中南米の左翼勢力から「アメリカによるラテンアメリカ支配の象徴」と見なされるのはこうした歴史のためである。
同運河は、長らくアメリカの安全保障上のキーストーンであり、米軍も駐留を続けた。しかし、1999年末、運河はアメリカからパナマに返還され、同時に米軍も撤退する。この運河返還と米軍撤退を見越して、90年代初めからじわじわとパナマに触手を伸ばしてきたのが中国であった。
パナマに現在、中国人が押し寄せている理由の一つがこの運河にあることは間違いない。世界的な交通の要衝であるパナマを「落とす」ことは、まさにアメリカの喉元に合い口を突き付けるに等しいからだ。
強盗被害に遭う中国人が経営するスーパー
中国政府が、パナマをターゲットとした理由はもう一つある。
パナマをはじめ中米には、台湾と国交を結んできた国が多い。これらを転向させる作戦の成果がとくに2000年以降、目立ってきた。04年にはドミニカ、05年にはグレナダ、07年にはコスタリカが台湾と断交し、中国との国交樹立に至っている。
アメリカの喉元に合い口を突き付け、台湾の国際的孤立を深めさせる。この重要な工作のために、自国民を大勢パナマへ送りこみ、エビの輸出等の現場で働かせることは、中国にとって一石何鳥の戦術だ。毛沢東以来、本気で「地球制覇」を目指す中国の最強の武器は、「人」である。いつの日か、世界中を中国人の海に沈めてしまおういう作戦なのだ。