「夏にも美味しいものが……」
だから、冬だけじゃなくて、たまには夏にも来てみてくださいな。
フグを食べるならここ、と決めている店が下関にある。「浪花」という寿司屋である。当然、ふつうの寿司も真っ当な素材で丁寧な仕事をしたものを食べさせてくれるが、極上のフグ刺しのみならず、カマや白子を焼いたり、塩釜にした肴がいい。酒が進んで困る。
そんなわけで、コートを着る季節になると下関を思い出すという条件反射なのだが、浪花の主人の荒川さん、そして、この地の飲み友だちは、半袖の季節も下関というのだ。
その主役というのがウニ。
北海道を思い浮かべるがと言うと、いやいや、それよりこちらの方が……と口を揃える。繰り返し、その話を聞かされていた上に、そろそろ良い季節だよというメールまで。否応もなく、新幹線に乗ったという次第。
新下関の駅で待ち受けていた友人に、車に乗せられ、着いたのが萩。萩焼と松下村塾など近代史の舞台として名高い、歴史の町だ。
資源保護の観点から、ウニを取っても良い時期は、ウニの種類によって、細かく決められている。取って良い時間や曜日までもの細かさ。訪れた時は、ちょうどこのあたりのバフンウニが解禁だった。
龍馬のお仲間が現れても不思議ではなさそうな町並みを抜け、海辺にいく。世界一小さな休火山という説もある笠山のある半島。緑の美しい一帯。そのすぐ前で海士(あま。男性の海女)が小舟を操りつつ、潜ってはウニを取っている。
港では家族が待ち受け、殻から身を取り出し、きれいにするという作業。特に生塩漬け、アルコール漬けにして美味しいというバフンウニの作業は、見ているだけで気が遠くなる。真っ当なものは、安くては申し訳ないと思われるような手仕事。何故、小瓶があんなに高いのかと思っていたが、納得。
夕暮れが迫る。今日は萩泊まり。宿は老舗の「常茂恵〔ともえ〕」。如何にも萩らしい美しい庭を持つ落ち着いた宿だが、こんなものを食べたいというリクエストに応えてくれるところでもある。
ウニを食べたい。
そう頼んだら、これでもかのウニ尽くし。
生湯葉にウニ、畳鰯にウニをぬって炙ったものから、生ウニをこれ以上はないというくらい豪快に殻のまま盛り付けた大皿。そして、アワビとウニを一緒に煮た、いちご煮の椀や炊き込みご飯。