2024年6月16日(日)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月30日

 木下監督とか、山田太一さんみたいに、潔くなくて躊躇する人間、イジイジする人間に、それでも備わってる強さっていうのを認めて、ちゃんと作品にする人がいてくれた。

 いまはなんとなく、ハリウッド映画的に威勢のいい人間ばかりが描かれる風潮なんだけども。

 僕は、原さんが、木下惠介の後継者だって、本当に思ってるのね。

 イジイジしたり、泣いたりする強さ。

 そういう人間像を描くってところは、世界的に見て大いに貴重で、日本映画の重要なジャンルだと思ってる。山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズに、それが現れてたし、山田太一さんは、テレビでずっとやられてきたと思う。

 強くなく、潔くもない人間像を、劇場映画で復活させたっていうことは、僕、原さんの大きな貢献の1つだと思う。

 自分のことを強いなどとは1度も思ったことのない主人公がいて、それは平均的な人間像でもあるわけだけど、でもその彼、あるいは彼女に、実はずっと大切に思っている心情がある。

 そこから、物理的な意味とはまた違う強さが静かに出ている、っていうね。それは日本人のいいところでもあるんだよね。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の又兵衛も、戦には強いが、女には意気地がない。どこか寅さん的だ。
©シンエイ動画

 逡巡したり、決断できないときに考えこんじゃう。すごくそれがいいことでね。今回の『カラフル』が、けっきょく善は勝つみたいな、『素晴らしき哉、人生!』のような結論にならなかったのは、ほんとにすばらしかったと思う。

 ……。

浜野 言い方は悪いけど、原さんの場合、輝ける成功者でなかったことが作品の核となっている。失敗をしっかり経験されて、表現者になった。

 原さんが偉いのは、自分で情報を遮断しているところだと思うんです。インターネットを検索してすぐに出て来る情報なんか、最初から見るつもりがない。

 実は、いま映画を支えている若手の少なくない人たちは、自分の体験から映画をつくってない。いつか見た、あれ、恐らくはハリウッド映画で見た、ああいうもの、っていう土台があって、その感動を自分の映画作品で再現しているだけなんですよ。

 でも原さんは、自分の体験を映像化している。

 と、いうより、そこから発想しようと努力している。だから強い。なぜかというと、原さんには本当の失敗とか、くやしさというのがあったと思う。飄々としているけど、僕だって、「死んだ魚の眼をしてる」とか言われたら、一生トラウマになるよ(笑)。

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