2024年11月22日(金)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月30日

 ねたみとか、嫉妬とかは、自分の中ではどうしてきたわけ?

「『しんちゃん』だからってなめんなよ」

 そういう感情もありますよ。ありますけど、だからといって「いつかみてろ」とは思わない。

 僕はアニメーションの仕事にしても、子供向けのアニメばかりつくってる会社にずっといたわけですよ、『ドラエもん』とか、藤子不二雄作品とかをつくってきた。

 それって、アニメ業界のなかでは、ずっとバカにされてきたんですよ。実は当時既に、『AKIRA』 (1)のような、今の「ジャパニメーション」といわれるジャンルにつながる作品が現れ始めていたし、アニメをやりたいと思ったやつらは、そこに向かっていったりしてたわけです。

 僕は全然そんな気はなかった。そんなの俺は興味ない、やりたくない。大変に決まってるから。

 でも、どこかで、自分のやってる仕事と、そうしたジャパニメーション的作品の埋めようのない距離感というか、絶望的に感じたりはしてたんですけどね。

 そうだなあ、どっかで「なめんなよ!」ていう気持ちはあった。「『ドラエもん』だからってなめんなよ」、「『しんちゃん』だからってなめんなよ」っていう気持ちは、どこかにあったんですよ。

原監督は『クレヨンしんちゃん』のなかで、見事に多様な愛の形を描いた
©シンエイ動画

 そのうち、頑張ってたら、『しんちゃん』が、業界的にも「アニメ扱い」してもらえる作品になったんですよね。「『しんちゃん』はけっこうすごい」みたいな。

浜野 ほんとにえらかったのは、腐らなかったことですね。

 普通、そういう人はいっぱいいるんだよね。「こういう仕事をさせられたから」って腐っちゃって。でも、原さんは一歩一歩着実に成果を残した。

 もし僕が監督で『しんちゃん』をやって、『雲黒斎(うんこくさい)の野望』(2)ってタイトルつけられたら、それだけで腐っちゃう(笑)。「どういう映画つくりました?」「『うんこくさい』です!」って、ちょっと言えない、自分からは(笑)。

 どうしても他人(ひと)と比べたがる気持ちは、自分の中にもあるんですよ。

 だから、さっき浜野さんが言ったみたいに、なるべく他の情報が目に入ったり、耳に入ったりしないようにしてるっていうのは、実際あるんですよ。

次の作品はどうなる?

浜野 じゃあ、最後に、終わってホッとしているところだと思うけど、次作はどうするの?

 話はあるんですけど、まだ動いてはいないです。

浜野 また放浪するのですか?

 いやいや、しないですね。ちょっと休み休み進めて。まだ具体的な話じゃないんで、全然。

浜野 自分からの企画? 持ち込み?

 持ち込まれてきた企画ですかね。

浜野 それだけ期待を受けている。これ以上聞いてもなんだから、じゃあこの辺で。

(1)『AKIRA』:1988年公開のアニメーション映画。原作は、大友克洋の同名マンガ。シナリオは大友と橋本以蔵、監督は大友自身が務めた。近未来都市ネオ東京を舞台に、超能力者や暴走族、軍隊、ゲリラたちの戦いを描く。“ジャパニメーション”の代表的作品として知られる。
(2)『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』。原監督による、1995年に公開された『クレヨンしんちゃん』の劇場版映画。原氏はこの作品で演出を務めている。監督は、シンエイ動画の本郷みつる。
 
 

 

(構成・谷口智彦)

原 恵一(はら・けいいち)
アニメーション監督。
1959年群馬県生まれ。1982年シンエイ動画入社。テレビシリーズの『ドラえもん』の演出などを経て、 『クレヨンしんちゃん』の監督に、劇場監督作品は『エスパー魔美 星空のダンシングドール』『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』などのほか、『クレヨン しんちゃん』では6作を手がける。01年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』が話題を呼び、02年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼 ぶアッパレ!戦国大合戦』で、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞などを受賞した。2010年8月には、最新作『カラフル』が公開予定。

映画『カラフル』
原恵一監督最新作!直木賞作家・森絵都のベストセラー小説を感動のアニメ映画化!
原作は『風に舞い上がるビニールシート』で第135回直木賞を受賞している作家、森絵都の同名小説。生きていくことをポジティブに伝えていくこの物語は、 主人公と同世代の中高生はもちろん、「かって中学生だった」大人たちも爽やかな感動の渦に巻き込んだ。そしてこの感動作は、原恵一の演出によって最高の映 像作品に生まれ変わる。
全国東宝系で、8月21日(土)より待望の劇場公開。
公式サイトはhttp://colorful-movie.jp/index.html


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