2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月4日

 豪ローウィー研究所のキャラハン非常勤研究員(元IMF理事)が、同研究所のウェブサイトに5月25日付けで掲載された論説にて、トランプの近視眼的決定のためにTPPを死なせてはならず、TPP11を歓迎するとしつつ、11カ国の内実は割れているので引き続き日本の強いリーダーシップに期待する、と述べています。要旨は次の通りです。

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 TPPはアメリカの離脱で死んだと思われていた。当初、安倍総理もアメリカ抜きのTPPは無意味だと述べていた。しかし、5月21日のAPEC会合の機会にアメリカ以外の11カ国が「原署名国の加盟をどのように容易にするかを含め、包括的で質の高いTPP合意を迅速に発効させるための選択肢を評価するプロセスを開始することに合意した」との声明を発出したことでTPPは息を吹き返した。

 それは、中国がRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を通じて影響力を増大させることに懸念を抱いた日本が4月に態度をUターンさせたことによる。

 TPP11は朗報である。第一に、TPPは単なる関税引き下げではなく、労働、環境、国有企業、知財、デジタル経済、およびサイバー・セキュリティーなどについて高いレベルのスタンダードを定めた21世紀の協定だからである。そして第二に、保護主義が広がる中でTPPはより開放的で多角的な合意を代表しているからである。

 しかし、TPP11は結束というショーを演じたが内実はバラバラである。ベトナムはアメリカからの直接投資とアメリカ市場への進出の代価として高いレベルのTPPに合意した経緯があるし、またマレーシアの高官は「我々は日本とは違うグループにいる」と述べた。両国がTPPの内容を緩いものにしようとすれば交渉が長引くほか、アメリカの復帰の可能性を引き下げることになる。カナダとメキシコは、来るべきNAFTA交渉を念頭に曖昧な対応であったと報じられている。

 皮肉なことに、アメリカの離脱の最大の「敗者」はアメリカである。製造業と鉱業でいくらか雇用を「救える」かもしれないが、それは農業とサービス分野での雇用の喪失に凌駕されてしまう。

 ニュージーランド首相は、TPP11声明は期待した以上のものだったと述べた。そうかもしれないが、声明はTPP救出の出発点でしかない。日本の強いリーダーシップに期待する。

出典:Mike Callaghan,‘TPP: With one down, can 11 stand?’(Lowy Institute, May 25, 2017)
https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/tpp-one-down-can-11-stand


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