2024年6月16日(日)

ベストセラーで読むアメリカ

2010年8月11日

 ローラ・ブッシュといえば、愛読書がドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」で、高校時代に交通事故で友人を死なせたことがある、という2点が特に2000年の大統領選の時には話題になっていた。大統領選が白熱した当時アメリカに住んでいた評者・森川としても、事故の状況とその後の心の痛みを記した部分は感慨深かった。

 さて、ローラ・ブッシュといえば、前任のファーストレディーのヒラリー・クリントンとは好対照であることがよく語られる。政治的な野心を隠さないヒラリーに対し、内助の功で夫を支えるローラ、といった具合だ。実際、本書の後半を占めるホワイトハウス時代の回想でも、大統領である夫をそばで見守り支える献身的な姿勢が鮮明だ。9・11テロの後の、アフガニスタンやイラクでのアメリカによる軍事力の行使に関しても、夫であるブッシュ大統領の決断を支持する。戦地で戦うアメリカ兵たちのことを思って、自分も眠れない夜が続いたことなどを記す。

 イラク戦争中のある日のホワイトハウスでの、一家だんらんの夕食の様子を描く次の一節は印象的だ。

 Every day George read the casualty reports. He knew which military service, what city or province, and how. It was heartbreaking. One night at dinner he was particularly silent. Barbara and Jenna were there, teasing him, trying to get him to laugh. Eventually he just got up and excused himself. I told them then that a packed military helicopter had been shot down that morning over a field outside Baghdad. (p288)

 「ジョージは毎日、(イラク戦争の)死傷者に関する報告書を読んでいた。どの部隊が、どの街や村で、どんな惨事にあったかを把握していた。とても心が痛むものだった。ある晩の夕食の席で、ジョージは特に無口だったことがあった。(双子の娘の)バーバラとジェンナもいて、ジョージに冗談をいって、なんとか笑わせようとしていた。結局、ジョージは食事の途中で席をたって出て行った。その時、わたしは娘2人に、その日の朝に、バグダッド郊外でアメリカ兵を乗せたヘリコプターが撃ち落とされたことを教えた」

 世界最強の軍事力を持つ国のファーストレディーである以上、自国の兵士も含め多くの人々の死と向き合わなければならない。超大国の大統領夫人であることの厳しい現実を思い知らされる。アメリカの読者たちも、改めてそんな思いを持ったかもしれない。


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