日欧の経済連携協定(一種の自由貿易協定)が大筋で合意しました。自由貿易を目指したものが合意されたのは、基本的に好ましいことです。特にトランプ政権誕生やBrexitなど保護主義の蔓延が懸念されるなか、事実上崩壊したTPPの穴を埋める、希望の光だと言うと言い過ぎかもしれませんが(笑)。
しかし、中身を見ると、チーズの輸入が自由化されたのではなく、輸入枠を設けて15年かけて無税にするなど、到底「自由な貿易を実現しよう」といった意気込みが感じられるものではありません。そもそも、今まで協定が結ばれず、今回もこのような限定的な合意にとどまったのは、自由貿易が政治的に困難だからです。今回は、自由貿易の困難さについて考えてみましょう。
経済学者は自由貿易が大好き……初心者向け解説
経済学者は、自由貿易が大好きです。お互いの国が得意な物を大量に作って交換すれば、各国が不得意な物まで自分で作るよりも豊かに暮らせるからです。日本は土地が狭いので、農業に向いていませんが、技術力があるので工業製品は得意です。そこで、工業製品を輸出して外貨を獲得し、それを用いて外国から農産物を輸入すれば、今より豊かに暮らせるはずなのです。
農産物の輸入自由化は、日本にとってマイナスだと考えている人も多いでしょうが、農家にとってマイナスである一方、消費者は安い農産物が手に入るので、消費者にとってはプラスです。経済学的には、消費者へのプラスの方が農家へのマイナスより大きいので、輸入自由化は積極的に推進すべきだ、ということになるのです。
加えて、交換条件として相手国に「日本からの工業製品輸入の関税を引き下げろ」と言えるので、日本の製造業にとって輸出が増えるメリットも見込まれます。それなら、自由貿易協定を締結するしかない、というのが経済学者たちの主張なのです。
政治家は、農家の失業を気にして消極的
一方、政治家は、自由貿易協定に積極的ではありません。一つは、農家が失業してしまうからです。農家は「来年から製造業で働け」とか「来年から外国の農場で日本向け輸出作物を作れ」と言われても、困りますから。政治家にとっては、失業のない経済を作ることが重要なのです。一方で、主流派経済学は失業の問題を気にしません。「失業の問題は、神の見えざる手が解決するから、気にすることはない」と考えているのです。まさに「失業した農業関係者は製造業で働くだろうから、心配無用」といった感じです。だから、政治家から見ると「経済学者の主張は却下」なのです。