日本における政策立案過程は劣化を続けている。成長戦略などでは問題の分析や結果の検証が乏しく、山のような施策が優先順位もなく積みかさなっている。更に特定の利害によって歪められているが、諸外国では、政策の質を高めるため、エビデンスに基づく政策決定(例えば新薬や治療方法の費用対効果の分析)、独立的な機関による検証や評価などが標準となっており、残念ながら日本は取り残されている。
こうした問題の背景には公務員制度がある。法令上、公務員は能力と業績で任命し、政治的中立性が求められるが、現実には、こうした原則から乖離している。公務員は自らの利益を求めるため、関係する会社等に天下って、族議員とともにその利益を守ろうとする。これが岩盤規制であり、抜本的に改革するためには、官僚の政治的中立性や専門性を高める更なる公務員制度改革が必要である。
前川前文科次官は、5月25日の記者会見で、「官邸など政権中枢からの意向、要請といったものに逆らえない状況がある」、「本当は私自身が内閣府に対して『こんなことは認められない』と強く主張して筋を通すべきだった」などと述べた(「朝日新聞」5月26日付)。辞めてから今さらの発言と言えるが、この背景には、2014年に設置された内閣人事局による幹部人事がある。
国家公務員制度改革は、そもそも2006年に誕生した第一次安倍内閣が始めたものである。しかし、関係法案は3回廃案になり、ようやく成立したのが2014年である。
そのポイントは幹部公務員の任免を内閣で一元管理する仕組みであり、その担当組織が内閣人事局である。具体的には、審議官(部長級)以上の幹部について、職務遂行能力をチェックする適格性審査を行い、それをクリアーした者を幹部候補者名簿(約600人)に記載する。
国家公務員法上、公務員の任命権者は大臣あるいは総理であるが、大臣等が特定の者をあるポストに任命する場合は、当該名簿に基づき、総理・官房長官と協議して決めることになった。大臣の人事提案が官邸の意に沿わない場合は、菅義偉官房長官がそれを覆していると報じられており、官邸主導の公務員人事が定着した。
従来、霞が関の人事は、政治が介入しないという不文律があり、大臣は、官僚が提案した人事案をほぼ承認するだけだったが、これを変えたのだ。
上司の大臣が部下の公務員の人事を行うのは当然と思うかもしれないが、筆者は、この仕組みに対し2008年、公務員制度改革を具体化するための検討会議に加わったときから警鐘を鳴らしてきた。その報告書では、幹部候補者名簿はポストごとに2~3倍程度の候補者が掲載される名簿とすべきと提案した。その名簿の中から総理・官房長官・大臣が協議して決める。