加計学園問題は、怪文書の存在、元文部科学省次官の証言などで世の中を賑わしたが、事実を隠蔽しようとした官邸や内閣府、規制改革に抵抗する文科省という2つの異なる事象が重なり、問題がわかりにくくなった。この問題は、霞が関の劣化を改めて知らしめるものであり、政府のガバナンスに関わる問題だ。結論を先取りすれば、岩盤規制を打破し、霞が関の劣化を食い止めるためには、競争原理に基づく公務員制度改革が必要である。
加計学園問題で批判になったのは、文科省が作成した「総理のご意向」などと書かれた文書を巡り、政権は当初「怪文書」として再調査を拒んだが、前文科次官が役所の文書であると証言したことから再調査が行われ、政権が文書の存在を認めるに至ったことである。
「総理のご意向」は官僚たちの常套句
安倍政権の失敗はこの文書の存在を頭から否定したことだ。筆者は霞が関で勤務した経験があるが、この文書に記載された「総理のご意向」は、それが事実か否かは別として、総理を議長とする会議の担当者が使う常套句である。
獣医学部の設置は、「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準」 (2003年文科省告示第 45号)によって、文科省に設置された「大学設置・学校法人審議会」の審査の対象にされず、門前払いされてきた。この告示では大学等の設置について「歯科医師、獣医師及び船舶職員の養成に係る大学等の設置若しくは収容定員増又は医師の養成に係る大学等の設置でないこと」と定められている。
これは民間の主体を規制するにもかかわらず、法的根拠はなく、典型的な役所の裁量行政だ。国会終了後、安倍晋三総理は、今後獣医学部を2校でも3校でも新設を認めると言ったが、そうした数の問題ではなく、総理が自らドリルの刃となって穴を開けるべきはこの告示だ。一度大学・学部が設立されれば、教育の質にかかわらず存続が認められることを議論すべきではないか。
獣医学部の新設を巡る問題の核心は、同じく新設を希望した京都産業大学が外されて、加計学園だけが選定された選考過程の公平性や透明性である。不正があったとは思えないが、最初に選考ルールを公開した上で、そのとおり実施したことを証拠で立証できないかぎり、便宜を図ったと疑われる。本来は、加計学園と京産大の2校を同じ土俵にのせて審議するべきだった。
日本は、相変わらずの政治家(族議員)・省庁・利益団体による既得権のトライアングルが強固である。学科・学部等の設置を巡っては、様々な書類の作成や手続きが必要となっているため、文科省は許認可で権限を振るい、大学側は文科省からの天下りを受け入れて当局とのパイプを作り、政治家は文科省に許認可に関して圧力をかける、こうした関係である。