昨今、東京五輪・パラリンピック関係の報道が喧(かまびす)しい。目下の関心は膨れ上がった開催費用を誰がどのように分担するのかに絞られているようである。
こうした喧騒に紛れるかたちで、大会組織委員会は2017年3月、大会で供される水産物の調達方針に基づき、調達コードの第1版を発表した。
東京五輪は開催都市や開催国が大会を通じて「ポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく」ことを基本理念と謳っている。
こうしたレガシーとして近年から引き継がれてきたものが、地球環境や持続可能性に配慮した大会運営という考え方である。大会運営はコンパクトで環境に過度な負荷をかけず、物品の調達も環境に配慮したものを選択する。
水産物を含め食品についても同様である。大会で実際に消費される水産物は、大した量ではないかもしれないが、それを契機に持続可能なシーフードの潮流がレガシーとして生まれることが期待されている。
本来であれば、今回の調達コードが凋落続く日本の水産業の変革を促すはずであったが、残念ながらそうはならなかった。
日本の水産業は右肩下がりの状態にある。農林水産省の統計によると、1960年代初め70万人近くいた漁業就業者は2016年には16万人へと激減している。現在、16万人の漁業者のうち半数が60歳以上である。儲からないので、後継者がいないのである。適切な資源管理がなされぬまま、乱獲等によって魚がいなくなってしまったことが大きい。
『水産白書』によると、日本の約50魚種84系群の資源状態のうち、約半数が資源量「低位」にある。
他方、FAO(国連食糧農業機関)によると、25年の水産物生産量は13~15年比17・4%増と予測されるなど、世界で水産業は成長産業である。世界第6位の200カイリ水域を有する日本が本気で取り組めば、漁業は衰退どころか一大産業へと変革するチャンスがある。現状を憂慮する関係者には、五輪がその契機となるのではないか、と期待を寄せる向きも多かった。
残念なことに、その期待は裏切られた。発表された調達基準には大きな抜け穴があり、国産であれば、ほぼ〝何でもあり〟の内容だからである。