築地市場の豊洲移転問題についても議論が白熱するなか、改めて本問題で話題となった「環境基準」の意味を述べたい。環境基準の意味を理解すれば、それを利用する人たちの意図も透けて見える。
築地市場の豊洲への移転問題では、「環境基準値の何十倍」という、それがあたかも危険であるかのような情報が溢れかえった。
もともと昨年11月の移転を予定されていた豊洲市場予定地において、地下水から環境基準を大幅に上回る有害物質が検出されたことで、移転はますます不透明さを増した。その後、土壌汚染対策の専門家会議が、豊洲市場施設は科学的に安全だとし、小池百合子東京都知事自身も法的に安全であると宣言したが、いまだに市場移転の是非は決まっていない。
事の発端は東京都の説明能力不足
まず、はっきりと言おう。豊洲市場は、科学的に安全である。小池知事は都民の「安心」というロジックを持ち出しているが、知事自ら安全である理由を真摯に説明すれば、都民はそれを得られるはずだ。
最初は東京都が行ったとされてきた「盛土」がなされていなかったことが問題になった。これは、東京都の都民への説明能力に問題があったためであり、その後の検証で、盛土の代わりに建設された地下ピットや、積載荷重の問題など、建築物としての安全も、問題はないことが確認された。
その後、地下水が環境基準を何十倍も超えている有害物を含むから、安全ではないのでは、と報道され、そこからは環境基準の意味については詳しく伝えない、問題のある報道が多く見受けられた。環境基準とは何か、これが安全基準ではないことを理解していないメディア、あるいは、それを知っていても受けを狙うメディアによる報道が行われたのである。
環境基準はあくまで「望ましい」基準
環境基準は、「環境基本法」によって定められている。1993年にできたこの法律は、日本の環境政策の方向性を示すものである。その第16条に、環境基準とは「政府は、(中略)人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする」とある。これが環境基準であり、それは「そうあらねばならない」という基準ではない。あくまで「望ましい」基準、つまり長期的な目標である。