Wedge REPORT

2017年5月12日

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安井至 (やすい・いたる)

持続性推進機構理事長、東京大学名誉教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程終了後、同生産技術研究所で助手、講師、助教授、教授。同国際産学協同研究センター長を経て58歳で辞職し国際連合大学・副学長。科学技術振興機構、製品評価技術基盤機構理事長を務めた後に現職。

安全にはあり安心にはない客観的な基準

 環境省幹部は、国民が環境情報をどのように受け入れるか、そのすべてを知っている。小池知事は元環境大臣で、市場問題プロジェクトチームの小島敏郎座長(弁護士)も、元環境省の地球環境審議官であり、環境行政に精通している。

 一般論だが、安全には客観的な基準があり、安心にはない。安心とは、完全に個人の意識と知識(量と質)に依存するものである。今回の問題は環境問題を十分に分かっている面々が、意図的に安全と安心を使い分け、安心を実現できるかのように思わせることで、都民からの支持を集めているのではないかと推測できる。

 筆者も環境学者であり、公害時代の負の遺産である豊洲に残る土壌汚染を、環境基準値以下になるまで浄化したいという理想には共感する。しかし、それは移転の是非には関係のない話である。環境基準というものは、これまで述べたように理想的な将来目標であり、今すぐ、実現しなければならない基準ではない。理想を実現するには、時間も費用もかかる。

 小池知事が移転延期を発表した記者会見で解消されていないとした3つの疑問点、「安全性への懸念」「巨額かつ不透明な費用の増大」「情報公開の不足」のうち、安全性への懸念は完全に解決しており、残りの2つは豊洲に移転しながら検証すれば良い。しかし、都議会選挙を待って、まだまだ数カ月、移転の決断が延びることになるだろう。

 移転が完了するまでは、築地市場を使っていくことになる。築地市場が、ネズミやゴキブリの制御が十分に行われていない現状では、本当に安全なのだろうか。かなり疑問である。小池知事に残された道はただ1つ。まず、今回の判断ミスによって無駄に使われてしまった税金の額を明確に示す。そして、豊洲への早期移転を実現することである。

イラスト:RINA YOSHIOKA

 現在発売中のWedge5月号では、以下の特集を組んでいます。

■特集「築地移転問題にみる日本の病巣」
・「ゼロリスク」の呪縛から逃れられない日本
・置き去りにされた「環境基準」の本当の意味
・再び政局に利用された築地 経済的合理性なき再整備案
・「築地市場はもう限界」 〝宙ぶらりん〟にされる仲卸業者の悲鳴
・〝玉突き事故〟の「環2問題」 東京五輪にも広がる悪影響

  
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◆Wedge2017年5月号より

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