施術後、比較的元気な姿で病室に戻ってきた。麻酔のせいか精神的にも安定している模様。ところが、だんだん様子が変わってきて、再びトイレに行きたいと言い始める。両手でベッドの柵をつかみ起き上がろうとするが力を入れると手術の跡が痛むので、そのもどかしさのせいで大声を出し始める。看護師が睡眠導入剤を与え、寝入った。しかし1時間足らずで目覚め、再びトイレに行きたいと騒ぎ始めるのでさらに睡眠導入剤を用いる。すぐに眠る。また1時間足らずで目覚める。こんな一夜だったと妻から聞かされた。
9月13日に退院した。入院費に約11万円を費やした。成年後見人は家裁の監督下にあるため、被後見人の入退院に際して逐一、家裁に報告しなければならない。こうした義務を怠れば、家裁の判断で、弁護士などを成年後見監督人に充てることができる。こうなると、後見人は一挙手一投足が監視下に置かれることとなる。ここに引用するのは、退院時に書いた報告書だ。
─―神戸家庭裁判所 接見・財産管理係御中
◎被後見人の退院についての報告
平成21年(家)第50774号事件で後見人に選任された松尾康憲です。
右大腿骨折で大津赤十字病院に入院、手術を受けた被後見人である伯母、松尾由利子が、9月13日、退院したので、「退院療養計画書」を添え報告します。
本日、有料老人ホーム「ハーネスト唐崎」に送り戻しました。以後も、時折の通院が必要となるもようです。
入院絡みの「特別支出」計上は、本日付で〆とします。 敬具
2011年9月13日火曜日
松尾康憲─―
これより後、由利子の体力と精神は、緩やかに、しかし確実に下降のカーブを描いていった。私が毎年の決算期、神戸家裁に送付してきた「後見等事務報告書」には、次のように記している。
ハーネストに移った当初は、見舞う時にグラビアの多い雑誌を差し入れたら、由利子が文字こそ読めなくなったものの、ページを繰って見入っていたが、やがて不要となる。手土産の菓子を持参するだけで、本人との対話も成り立ち難く、対面は十数分となっていった。「菓子のデリバリーサービスか」と自嘲しつつ、通うことでハーネストのスタッフとの意思疎通を保ち、より良い介護を願えるのだと思うに至った。
私は12年9月に大阪支社に戻り、13年8月山口支局長として赴任した。
私自身と由利子の転居のたびに、神戸家裁、東京法務局、市役所、年金事務所、ゆうちょ銀行などなどへの届け出を繰り返した。家裁へは入退院も都度報告した。なかなか煩瑣な作業であった。