2022年10月7日(金)

ある成年後見人の手記

2017年8月15日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 ともかくも、私が自己負担させられるのではないかと懸念していた、葬儀などに絡む「死後事務特別支出」(総額147万円)は、今回の審判書により承認されたことになる。

 一連の支出を済ませた後、ゆうちょ銀行に出向き、「松尾由利子  成年後見人  松尾康憲」名義の口座を閉鎖した。いよいよ、成年後見人としての「死後事務」の詰めに取り組まねばならない。それは、由利子が残した資産から、私への最後の報酬を差し引いた1400万余円を、三親等までの血族たち14人に渡すことだ。

 「なんで、わしが連中のサンタクロースをせにゃならん?」という疑念を、当初から抱き続けてきた。弁護士から家裁に任せる選択もあると聞いたように思い、葬式を営んだ後は遺産の全額を家裁に託そうと考えていた。

 しかし、由利子が亡くなる2週間前に神戸家裁の書記官から、家裁が遺産の分配を引き受ける道はなく後見人がやるしかない、と引導を渡されていた。私は、血族側との交渉でのトラブルを恐れ、立ち会ってほしかったので、「せめて相手方との協議を家裁でさせてもらえますか」と問うた。書記官の回答は、当事者同士でということで家裁の関与は打ち消し、血族側に代表者1人を選んでもらい、その人物に現金を振り込み、成年後見人通帳は書留で郵送すればよい、との内容であった。

 嫌で嫌でたまらなかった任務だが、退路を断たれた後に私の心境に変化が起きてきた。「やってやろうじゃあないか!」

相続を後見人に丸投げする家裁

 その後書記官に電話をかけた。「遺産を渡したら、私から家裁に報告するのですか。それとも血族から?」。すると書記官は「家裁は、あなたの収支報告を承認し報酬を決定した時点で、務めを終えています」。私は「1400万円を超える大金を個人間でのやりとりに任せ切っていいのですか?」と問いただした。

 家裁のこんな手法は「丸投げ」と言えるのではなかろうか。これまで、後見人の使い込みを警戒し、収支報告を厳しく求めてきた家裁が、この最後の詰めの甘さは何なんだ? 自分の仕事を増やしたがらないズボラな役所だ、と骨身に染みて思った。仮に、後見人が血族の1人か2人と組み、預貯金口座を閉じずに、遺産の山分けを企んだら成功は容易だろう。犯罪を誘発するような仕組みは良くない。(編集部注・最高裁によると、現在は、相続人に遺産を引き継いだことを示す証明書の提出がない限り、後見業務の終了とはみなさず、家裁が遺産等の状況を調査することになっている)

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