日EU間のEPAの大枠合意について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の7月6日付け社説は、米国抜きで通商上の多国間ルールが作られ米国が取り残されることへの強い懸念を表明しています。社説の要旨は次の通りです。
日本とEUは7月6日、99%の品目についての関税、その他の貿易障壁を撤廃することで合意した。何年もかけて段階的に実施され、一部の障壁は残る見込みだ。交渉は、日本の食品市場開放への躊躇、欧州の日本車への市場開放に対する抵抗を打破した。その効果は二国間貿易をはるかに上回るものとなる。
とりわけ、米国をTPPから離脱させTTIP交渉を中断させているトランプに対するメッセージが含まれる。米国の参加、不参加に拘わらず、世界中に貿易が存在し続ける。米国がTPPにとどまっていれば、米国の農家やその他輸出業者は日本での売り上げを伸ばせたはずだが、今や欧州にその機会が与えられている。
一方、トランプ政権は、鉄鋼その他の産品への報復関税を検討している。これは、米国の輸出業者への報復関税、米国のWTOへの提訴を招き、米国製品に対する外国市場の開放を困難にさせ得る。
米国がこうした保護主義的な道を進み続けるならば、世界の残りの国々は、さらなる貿易交渉を追求するだろう。その結果、米国の輸出業者は資材に対しより多くのコストを支払うことになり、競争者より高い関税にさらされる。消費者はより高い物価に直面する。これは米国の雇用を犠牲にし、収入を減らすことになる。
トランプ政権は、二国間貿易協定を追求するとしているが、米国が関税を上げ、同時に貿易相手国からのWTOへの提訴に対応するとすれば、二国間協定も困難になろう。
TPPのような貿易ブロックが米国抜きで構築されれば、米国は一層高いコストを払うことになる。他国の企業が新しい多国間のルールから利益を得る一方、米企業は、二国間協定下の煩雑なルールに対応しなければならなくなる。
多くの企業は、煩雑さを嫌い、二国間協定が提供する利益(特恵関税など)を放棄するかもしれず、米企業は、競争力を維持すべく工場を米国から移転せざるを得ないかもしれない。
それゆえ、複雑なサプライチェーンの構築にとり、多国間協定はカギとなる。日EU協定は二国間だが、米国を排除したさらなる協定の基礎となり得る。米国が貿易におけるリーダーシップを放棄すれば、他の国々はルールを設定し、その中で繁栄し、米国は取り残される危険がある。
皮肉なことに、米国の製造業の生産性は世界をリードしており、雇用は回復しつつある。米国企業が輸出を拡大し得る時にあって、トランプ政権は機会を駄目にしている。日EU協定は、他の国々が貿易の主導権を取り、米国が享受するはずの繁栄を手に入れることへの警告である。
出典:‘The Japan-EU Trade Warning’(Financial Times, July 6, 2017)
https://www.wsj.com/articles/the-japan-eu-trade-warning-1499382116