2024年7月15日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月15日

中国をライバル視していなかったアメリカ

 では、対するアメリカはどうか。実は筆者にはアメリカで中国専門家を取材したときの強烈な印象がある。もう4年前のことだが、この時感じたのは「アメリカの視界に中国は入っていない」ということだ。すでに経済大国として台頭著しく、互いに世界最大規模の大使館を新築中だったが、それでも筆者がそんな印象を持ったのは、アメリカの中国研究者や専門家たちのほとんどが、実際の中国よりも米国内でどんなポジションを取るのかを目的に中国論を弄んでいると感じたからだ。

 Kストリートに並ぶシンクタンクでは、スポンサーや何かの力学次第で、パンダハガー(親中)にもドラゴンスレイヤー(反中)にも自在になれる。その現実はつまり、中国がアメリカのライバルになるなどとは、少なくともワシントンでは誰も考えていないことを意味していた。

 だが、このアメリカの余裕は08年の世界金融危機後に突出した中国の経済的なプレゼンスによって失われ、アメリカがいよいよ本格的に中国を視界にとらえ始めたと考えられるのだ。

 また、オバマ大統領が打ち出した雇用促進政策の目玉の一つ、「輸出を五年で倍増させる計画」は、従来の「中国が貯め込んだ貿易黒字をアメリカに還流し、アメリカが金融で儲ける」という相互補完的な関係を壊し、ライバル関係へとシフトさせた。同時に、これまでは形式的ともとれた中国に対する人民元切り上げ要求も、いよいよ本格的な圧力となっているのだ。

 アメリカがにわかに南シナ海の問題に介入し始めたのは、中国へのけん制と同時に経済圏としても存在感を高めるASEANをにらんだ動きだと考えられる。

高まる軍の発言力 外交の舵取りはより困難に

 この南シナ海の緊張は、一方で中国の国内には外交という以上に“内政”に大きな変化をもたらしている。それは人民解放軍の発言力の高まりである。経済偏重の風潮のなか存在感の地盤沈下に焦りを募らせてきた軍が、これを好機ととらえ、積極的に強硬発言を繰り返しているためだ。

 情報発信は、軍が何かの意図を示すときの常とう手段で、軍事科学院や国防大学などを中心に発せられているが、総参謀部や総政治部なども「軍の重要性を再認識させる」という意味では完全に一致している。

 南シナ海では、中国の漁船が拿捕されるなどベトナムやフィリピン、マレーシアとの間で小競り合いが絶えず、強硬論に対する民衆の支持も高い。

 一方で国内的な理由で軍が対米強硬発言を発し、党中央は対米関係を重視しつつも国内民意の反発を考えれば弱腰な対応もできない。二重三重の拘束の中での舵取りを余儀なくされる中国には、中国がアメリカと「折り合う」にしても外交的な選択肢は少ない。危機を加速させかねない要素が米中間には横たわっていて、目が離せない状況だ。

※次回の更新は、9月22日(水)を予定しております。

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◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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