赤坂英一の野球丸

2017年9月20日

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内角にボールを投げるのを絶対にやめるんじゃないぞ

 さて、藤浪が制球難に苦しんでいた今年の夏、『ペドロ・マルティネス自伝』(児島修訳、東洋館出版社)という本が出版された。メジャーリーグのファンならご存じ、1992~2009年にレッドソックスをはじめ5球団で活躍、15年には44歳の若さで野球殿堂入りも果たした大投手の自伝である。

 ドミニカの貧しい家庭に生まれ育ったマルティネスは、野球でビッグマネーをつかもうとドジャースの野球アカデミーに入り、当地のサマーリーグの試合に先発する。まだ18歳だったマルティネスは、先頭打者に四球を与え、自ら満塁のピンチを招き、あっという間に4点を失った。

 そして、動揺したあまり次打者の頭に145㎞の速球をぶつけてしまった。倒れた相手が痙攣している姿を、マルティネスははっきり覚えているという。そのとき、投手コーチのエレオドロ・アリアスにこう言われたのだ。

 「あのピッチングを続けるんだ。メジャーリーグで成功するためには、絶対にあれが必要だ。今日のがわざとじゃなかったにしても、同じことをやらなきゃならないときがあるんだ。いいか、内角にボールを投げるのを絶対にやめるんじゃないぞ」

 そう言って、エレオドロは現役時代に投手として実の兄と対戦し、2打席連続でヒットを打たれ、3打席目にわざと死球をぶつけたことを明かしたのだ。非常に強烈な原体験である。やがて大リーガーに成長したマルティネスはエレオドロの教えを忠実に守り、死球の多さを球界で批判され、「首狩り族」などと仇名されてもひるまず、自分や味方に無礼な態度を取った打者に対しては、「今度対戦したらおまえにぶつけてやる」と予告した上で、わざと死球をぶつけるようになった。この自伝の中では、1997年から引退する2009年まで、「僕のデッドボールの90%は意図的だった」と告白している。

 マルティネスの真似をしろとは言わないが、ぜひ藤浪に一読をお勧めしたい。メジャーの大投手の本音の野球観がわかるという意味で、私にとっても学ぶところの多い一冊だった。

  
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