2022年12月4日(日)

中東を読み解く

2017年9月29日

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“イランのブラック・ウオーター”

 しかし、シリアへの派兵は確かにヒズボラを強大な軍事組織に変えたが、一方で戦死者はこれまでに1000人を超え、負傷者は数知れない。レバノンには新しい墓地が作られ、連日のように葬儀が行われている。

 しかも、こうした戦死者や負傷者らへの補償金や援助に莫大な資金がかかり、組織の資金難は深刻だ。資金の大部分はイランからの援助に依存しているが、それではもはや十分にまかない切れない。このためレバノンの経済にも悪影響が出ているのが現実だ。

 ヒズボラのもう1つの顔は中東一帯にイランの軍事的、政治的影響力を拡大し、シーア派思想を広める先兵としての役割だ。イラン・ネットワークの中心的な存在がヒズボラなのだ。

 主導的な地位を確立したレバノンに加え、シリアではアサド政権軍を支える最強軍団であり、イラクではイランの革命防衛隊に代わってシーア派民兵を徴募、軍事訓練している。イエメンでも実権を掌握したフーシ派に軍事支援を行っている。

 この4月、イラクの南部砂漠でタカ狩り旅行をしていたカタールの王族の一団が何者かに誘拐される事件が起きた。その際、カタール政府が頼ったのは、イラク政府ではなく、ヒズボラだった。このヒズボラの交渉で、王族らは無事解放されたが、ヒズボラがいかに中東各地に影響力を持っているかを示す実例となった。

 こうしたヒズボラについて、ヒズボラの敵対者は米国の悪名高い傭兵企業に擬えて“イランのブラック・ウオーター”と揶揄しているが、ヒズボラの指導者ナスララ師はヒズボラの脅威を強調するネタニヤフ首相を「泣き言を漏らしている」と嘲っている。

クルド独立を対イラン工作に利用か

 イスラエルにとって、ヒズボラは目の前の敵だが、その背後にいるイランは中東でも指折りの大国だ。イランは最近も中距離弾道ミサイル「ホラムシャハル」の発射実験をし、米国がこれに反発。トランプ大統領がイラン核合意の破棄にあらためて言及し、米・イラン関係は悪化の一途をたどっている。

 ホラムシャハルは射程2000キロで、イスラエルも射程圏に十分入る。イランの統合参謀本部議長のムサビ少将は「シオニストが誤った行動を取れば、テルアビブやハイファが炎に包まれるだろう」と警告した。イスラエルにとって「ホラムシャハル」の発射実験の成功はイランへの軍事行動を一層困難にするものになった。

 イスラエルはこのところ、イラクやイラン、トルコが猛反発するイラクのクルド人独立の動きを唯一支持している。「敵の敵は味方」という論理に加え、もしクルド人の独立国家がイラク北部にできれば、「イランへの破壊工作の拠点になるし、イランのクルド人の動きを刺激して政情不安を起こすことができる」(ベイルート筋)と踏んでいるのかもしれない。

 はっきりしているのはシリアでの紛争の終結は新たな戦争の始まりになりかねない、ということだ。イスラエルとヒズボラの対決は今後、衝突に向けたカウントダウンを加速しそうな雲行きだ。
 

  
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