トランプ大統領はこのほど、アフガニスタン政策の新戦略を発表した。その柱は約4000人の米軍の追加派遣だが、この程度の増派ではイスラム原理主義組織タリバンを圧倒することは不可能だ。紛争の背後ではイランやパキスタンなど周辺諸国が蠢いており、アフガン情勢は一段と混迷の様相を深めている。
焼け石に水
トランプ氏は8月21日の戦略発表で「拙速な米軍撤退は過激派がつけ込む力の空白を生み出す」として、持論の早期撤退方針を転換した。アフガニスタンには平和維持のため、北大西洋条約機構(NATO)軍の主力部隊として最盛期には10万人の米軍が駐留していたが、オバマ前政権が撤収を進め、現在は8400人の駐留にとどまっている。
しかし、政府軍との戦闘を続けるタリバンの勢力と支配地拡大は続き、ニコルソン駐留軍司令官から増派が要求されていた。国防総省やホワイトハウスのマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題)は米軍の追加派遣を進言してきたが、トランプ氏は7月の会議でも「なぜ勝てないのか」などとかんしゃくを爆発させていた。
このアフガンへの増派問題は一方で、ホワイトハウス内部の深刻な対立を引き起こしてきた。「米第一主義」を掲げる強硬派のバノン首席戦略官とマクマスター補佐官らが衝突を繰り返し、トランプ氏も決断を先送りにしてきた。しかし、バノン氏が大統領の信頼を失って解任され、ケリー首席補佐官(元大将)の後押しもあって新戦略の発表となった。
だが、トランプ氏は増派の規模や撤退の具体的な時期を示さなかった。これについて、米メディアは一斉に4000人弱と伝えているが、4000人規模の増派では「焼け石に水」(アナリスト)だろう。米国の選択肢としては、大規模増派や完全撤退もあり得たが、大規模な派遣はトランプ氏の考えに合わず、また国内世論や財政上から無理だ。
完全撤退も「すぐにタリバンや過激派組織イスラム国(IS)がその空白を埋める」(同)ことが確実視され、米国益に反する。このため、現実的な選択肢としては「タリバンを圧倒し、勝利する」のではなく、タリバンの勢力や影響力がこれ以上拡大することを食い止めるというオプションだった。
しかし問題は、タリバン側には戦いの時間が永遠にあり、米軍にはない、ということだ。米国はこれまで1100億ドルもアフガンにカネをつぎ込んできたが、このままではかつてアフガンに侵攻した旧ソ連と同様、泥沼にはまり込む懸念が強い。アフガンの内戦が解決できない理由は①イスラム過激主義の伸張②多民族の対立③腐敗まみれの弱体政府など、いくつもある。
特に最近のNGOの報告によると、アフガンの「汚職指数」は176カ国中169番目。後ろには北朝鮮、イエメン、南スーダンなどしかいない。軍からは毎月約4000人が脱走するほど国家への忠誠心がない。一方のタリバンはこの15年で4万人以上殺害されたが、2005年当時に最大1万人だった勢力は現在、6万人を超えている。支配地域も34州のうちその半分にまで及んでいると見られている。