2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2017年9月15日

 中東の大国トルコはこのほど、ロシアから最新鋭の地対空ミサイル・システムS400を購入する契約を締結した。トルコは西側の軍事同盟「北大西洋条約機構」(NATO)の一員だが、ロシア寄りに大きくカジを切ったと言えるだろう。プーチン・ロシア大統領からすれば、NATOに楔を打ち込んだことになり、中東でのロシアの存在感は一段と高まった。

(BeeBright/iStock)

有事のNATO作戦に支障

 トルコがロシアからミサイルを購入することは、数ヶ月前からの既定路線だったとはいえ、水面下で米国などからの見直しの圧力を振り切って購入に踏み切ったのは重大だ。独裁的な権力を振るうトルコのエルドアン大統領がロシアへの傾斜を強めていることが鮮明になり、中東の勢力図が大きく変わる動きだからだ。

 とりわけ、仮想敵国であるロシアのミサイルがNATOの中に導入されることで、有事の際のNATOの軍事作戦に支障が出る恐れがある。軍事システムの一体性が担保されない懸念があるためだ。加盟28カ国の中で、ロシア製の兵器システムを取り入れているところはトルコを除いて1国もない。

 エルドアン大統領は「トルコの独立性や、防衛に関する決定について語る権利はわれわれを除いて誰にもない」などと地元紙に述べ、ロシアからミサイルを購入することへの米欧の批判に反発した。トルコ同様、地域大国であるイランも最近、ロシアから同様のミサイル・システムを導入している。

 このロシア、イラン、トルコの3カ国はシリアの和平協議をカザフスタンでたびたび開催するなど枢軸関係を深めており、米欧の懸念は強い。特に過激派組織「イスラム国」(IS)が壊滅した後のシリアの将来については、この3カ国で方向を決めてしまう恐れがある。他国への不介入主義を標榜しているトランプ米大統領は元々、シリアの将来の国作りなどには関心がなく、このままでは米国抜きでポスト・ISの秩序が決まってしまいかねない。

 最初から反米のイランはともかく、トルコはなぜロシアに接近しているのか。両国関係は2015年、トルコによるロシア軍機撃墜事件により、一時断交寸前まで悪化した。しかし、ロシアが経済制裁を発動するなど硬化したことに対し、エルドアン大統領がプーチン氏に撃墜を謝罪したことから改善に転じた。

ロシア、トルコの接近の理由

 エルドアン大統領を一気にロシアに近づけたのは昨年7月のクーデター未遂事件の勃発だ。エルドアン氏は政敵で、米国在住のギュレン師を事件の黒幕と非難、米国に引き渡しを要求したが、オバマ前政権は無論、トランプ政権も応じる姿勢は見せていない。

 また米国が、シリアのIS掃討作戦にクルド人武装組織を使わないように、というエルドアン氏の要請を拒否したことも、同氏にとっては我慢ならないことだ。エルドアン氏はトルコ国内の反体制クルド人組織PKKを国家の脅威とし、シリアのクルド人がPKKと連携していると断じているからだ。しかし、米国は同氏の求めには応じようとしなかった。

 EU諸国も、クーデター未遂に続く、エルドアン氏の政敵のギュレン派や反体制派の大規模弾圧を非難し、人権問題で米欧との対立が激化した。しかし、プーチン氏が人権問題でとやかく言うことはなく、ともに独裁者の2人はウマがあった。かつてロシア、トルコが築いていた“帝国の栄光”への郷愁を感じているところも共通していた。

 プーチン氏はクリミア、ウクライナ問題で西側との対立が解けず、またトランプ氏の登場で期待した対米関係改善も、米国が8月、ロシアへの制裁を強化したことで望み薄となった。こうした中で、プーチン氏にとって、トルコはNATOの結束にヒビを入れ、中東での影響力復活の足掛かりにするのに格好の存在だった。

 エルドアン氏にしても、米欧との関係がぎくしゃくする中で、ロシアとの関係改善は好ましいものだった。中東に及び腰のトランプ政権に依存するのではなく、シリアへの軍事介入で地域の存在感を高めるロシアとの協調を強めることが国益に合致する、と判断したようだ。「ロシアなしにはシリア問題の解決は不可能だ」とプーチン氏を持ち上げるまでになった。


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