2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月26日

 このロス長官の考え方は、現在進行中の米加メキシコの3か国によるNAFTA再交渉で米側が主張していることなのでしょう。NAFTA国原産地と認める条件を厳格にし、非NAFTA国にはNAFTAから出てくる利益は与えないようにするとの主張です。

 NAFTA再交渉の結果、米国の主張通りの原産地規則が出来れば、メキシコやカナダに進出している日系企業に影響が出てくることは避けられません。しかし、どういう影響になるのかは、具体的な規定ぶりをみないと判断できません。

 これまでのトランプ政権の貿易政策についての発言は、事実やその分析に基づくというより、米国が大幅貿易赤字を抱えていることへの不満の表明のようなものが多いです。しかし、この論説は自動車及び部品の貿易についての事実を研究したうえでの主張になっています。こういう議論を米国がするのであれば、データの読み方、現状の評価などについて議論ができるでしょう。

 現状は、既存のNAFTA協定を踏まえて、各々の企業が経営上の判断をしたうえで出来上がったシステムです。米国自動車産業も、それに適応してきています。原産地規則の変更はサプライ・チェーンの変化、障害につながります。それで出てくる問題もあるでしょう。また、米国の自動車が競争力を維持するためには、現状が必要なのかもしれません。

 自動車産業は今、電気自動車EVへの転換という大きな転換点を迎えています。電気自動車になれば、部品の数は大幅に減ることになります。そのインパクトは原産地規則問題よりずっと大きなものがあります。

 原産地規則の変更で、米国の雇用が増えることになるかどうかは、EVへの移行など、もっと多くの要素を考慮しないと分かりません。その意味で、ロス長官の議論は短絡的に見えます。

 ただ、米国の貿易政策はこの論説に出ているような考え方を強調したものになると考えられます。米国側は、日米FTAを求めてくるでしょうから、米国の貿易政策は良く分析する必要があります。

  
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