2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月10日

 世銀総裁や米国務副長官を務めたロバート・ゼーリックが、9月5日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙に「迫りくるトランプの貿易破壊。彼の韓国との戦いは米を敗者にする。議会はその権限を行使し、彼を止める必要がある」との論説を寄稿し、議会はトランプが自由貿易協定を廃棄するのを止めるべきである、と論じています。論説の要旨は次の通りです。

(iStock.com/lukpedclub/adekvat/Evgeny Gromov)

 トランプの貿易政策は難破に向かっている。憲法上、議会は貿易について主要な権限を有する。議会はトランプを阻止するために行動する必要がある。

 9月初め、大統領は米韓FTAを廃棄すると脅した。これは米国の農産品生産者、製造やサービス産業に携わる輸出業者への障壁の増加になる。米韓FTAなしでは、韓国の関税は14%になりうる。EUはその協定で韓国への自由なアクセスを保持し続ける。

 トランプの本能は戦略的に首尾一貫していない。中国は韓国にミサイル防衛配備を理由に圧力をかけている。トランプが米韓貿易を切ろうとすれば、韓国は最大の貿易相手国、中国との関係を大切にし、その要求に応えることが論理的になる。

 米韓FTAへの攻撃は米国が経済パートナーとして信頼できないことを示す。アジア諸国は米国の経済的後退と安全保障上の約束が整合的か、疑問を持つ。北朝鮮の脅威が緊密な協力を必要とする中で、米韓関係をなぜダメにしているのか、だれも理解しないだろう。

 トランプの韓国攻撃はより大きな問題の一部である。彼は何度もNAFTAを廃棄すると脅した。トランプは「2国間の貿易赤字」をなくしたいと考えている。貿易赤字は成長率の違い、サプライ・チェーン、貯蓄と投資、為替レートなどの要因で決まる。比較優位を反映する。

 米国は、新しい取り決めで貿易赤字を黒字にはできない。トランプの交渉者は昔の共産主義陣営のCOMECON(経済相互援助会議)のようなバーターを導入して結果を出そうとするかもしれないが、市場経済国が計画経済的貿易モデルに合意することはないだろう。米国の輸入の60%を占める中間財により米国の競争力は保たれている。メキシコの黒字は自動車生産の統合の反映である。

 トランプはこういう現実を気に留めていないようだ。彼の本当の目的は保護主義、移民排斥、メキシコとの壁建設などで政治的連合を作ることかもしれない。北朝鮮、アフガン、中東での簡単な解決がなく、議会との関係もうまく行かない中、彼が乱暴な行為に出る危険がある。貿易赤字をなくせないので、「悪い取引」は破棄しかねない。

 トランプの貿易政策はアジア・太平洋での重要な関係を損ない、安保危機に直面する同盟国を傷つけ、北米パートナーシップを壊し、世界中で米への信頼を揺るがす。

 議会はもはやトランプが賢明にふるまうことを待つことはできない。トランプによる破壊を阻止するために貿易に関する憲法上の権限を行使する必要がある。

出典:Robert B. Zoellick,‘Trump’s Looming Trade Crack-Up’(Wall Street Journal, September 5, 2017)
https://www.wsj.com/articles/trumps-looming-trade-crack-up-1504653219


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