2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月10日

 ゼーリックは、世銀総裁、国務副長官を務めた共和党の有力者ですが、トランプの貿易政策を支離滅裂であると批判し、議会が憲法上の通商に関する権限を行使し、トランプが米韓FTAなどを廃棄する動きを阻止すべきである、と論じています。

 トランプの貿易に関する政策は、「2国間での赤字は出来るだけなくし、均衡させるのが良い」という考えに基づいていますが、2国間での赤字をなくすにはバーターなど、かつてのCOMECONが使っていたような手法でも使わないとできないでしょう。無理やりに2国間での均衡を追求すると、世界経済が混乱に陥るのは確実です。

 議会は憲法上、通商に関する権限を持っています。ファーストトラックとか貿易促進法(TPA)でこの権限を行政府に移し、行政府が通商交渉をできるようにしてきました。しかし、トランプの貿易政策の支離滅裂ぶりに鑑み、議会が通商に関する権限を行使し、トランプが米韓FTA廃棄などをしないようにすべし、というゼーリックの意見は拝聴に値します。

 FTA廃棄については、協定の書きぶりによっては、大統領が廃棄できるようになっている場合もあると思われますが、議会でそれを阻止する法律を通せば、ゼーリックの言う阻止ができるのかもしれません。対ロ制裁法案では「制裁をやめる際には議会と協議すべし」との規定がおかれ、トランプの行動の自由がなくされました。トランプは特異な行動をする大統領であることが今や明確であり、議会が三権分立の中で持つ権限を最大限使うことが、米国の安定化に資するように思われます。トランプは政治・軍事面ではそうでもありませんが、経済面では保護主義を標榜し、これまでの米国の政策を大きく転換させています。

 なお、ついでに言えば、議会の権限には、宣戦布告の権限もあります。対北朝鮮武力行使について、「すべての選択肢がテーブルにある」とトランプ政権は言っていますが、その選択肢を使う際の手続きについて法的に少し整理しておく必要があるように思われます。

  
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