「ネスカフェ ゴールドブレンド」などインスタントコーヒーと水を本体にセットし、カフェにある抽出機のようにコーヒーをつくる。1年余りの試行販売を経て2010年3月に全国のスーパーで本格販売すると、8月末までに30万台が売れた。メーカー希望小売価格は9000円と一般的な家庭用レギュラーコーヒー抽出機より割高だが、品薄状態が続く。
基本のブラックコーヒー(量により2種類)のほかエスプレッソタイプ、さらに牛乳を使ってのカプチーノ、カフェラッテと、計5タイプをつくることができる。ブラックやエスプレッソでは表面に「クレマ」と呼ぶ、きめ細かいブラウン色の泡ができ、カフェで出されるコーヒーと見まがう。
カプチーノとラッテは、あらかじめカップに冷えたままの牛乳を定量入れ、ノズルから噴射される熱湯で泡立てた後、コーヒーが注がれる。ペンギンを想わすデザインも魅力だ。製品名の「バリスタ」はイタリア語で「コーヒー淹れ職人」を意味する。インスタントコーヒーの市場が大きい日本向けの専用機として開発した。さて、問題の味。朝は時間の関係でゴールドブレンドにしており、味は熟知しているつもりだが、飲んでみるとインスタントだからという先入観はくつがえされた。知らされずに飲むと、牛乳を使うカプチーノなどはインスタントだと言い当てるのは難しい気がする。電源を入れると約30秒で作動するスピーディーさがあり、本体には牛乳を入れないため洗浄などの手入れも簡単だ。何より、コーヒーを淹れるプロセスを楽しむという、インスタントコーヒーに新しい価値を加えたのがヒットを呼び込んだ。
高過ぎず、安過ぎず
「売れる価格」の模索
「バリスタ」の価格設定や流通ルートなどプロモートで重要な意思決定を担ったのは、副社長でコーヒー・飲料・ギフト統括事業本部長の高岡浩三(50歳)。現職に就いたのは今年1月だが09年から、バリスタの事業準備にも関わってきた。高岡がまず着手したのは、「売れる価格」の模索だった。
大手スーパーの協力を得て、最初に試行販売した際は1万2800円だった。売れ行きは芳しくなかった。製造原価に自社や流通企業の利益を織り込んだ価格だったものの、高過ぎた。そこで1万2800円より安い「上中下」、3種類の価格による試行販売を行った。当初価格に比べ「上」は約2倍の売れ行きとなり、それ以外はいずれも10倍程度売れた。アンケートや店頭での実地調査も行った。「下」の価格については消費者が逆に「ワケあり商品?」などと疑心を抱くことも分かり、試行販売をしたスーパーでは、中間の価格に決まった。
コーヒーの販売増に狙い定めた事業モデル
しかし、これでは流通企業の利益は確保できても、ネスレに利益は残らない。高岡の考え方は柔軟で大胆だった。「バリスタで儲けようという発想を捨て、ネスカフェの販売増につながるビジネスモデルにすればよい」。パソコン用のプリンターは安いものの、電機メーカーはインクで利潤を稼いでいる。高岡はそれと同様の発想をしたという。