トランプ政権は2017年1月の発足直後から、国防政策に関する包括的な見直しを実施している。その土台となるのは、ホワイトハウスを中心に策定される「国家安全保障戦略(National Security Strategy:NSS)」と、国防省を中心に策定される「国家防衛戦略(National Defense Strategy:NDS=これまでの4年毎の国防政策見直し(Quadrennial Defense Review:QDR)に代わるもの)」であるが、そのほかに機能別の各種政策見直しも行われている。
中でも注目されるのが、核戦略や核兵器の戦力態勢に関する文書である「核態勢見直し(Nuclear Posture Review:NPR)」と、「ミサイル防衛見直し(Ballistic Missile Defense Review:BMDR)」である。これらの文書は、早ければ年内にも公表されるものと見られているが、その様相は過去8年間のオバマ政権のものとは大きく異なるものになると見込まれている。以下では、北朝鮮や中国、ロシアとの関係も見据えながら、トランプ政権の核・ミサイル防衛政策の方向性と、日本の安全保障への影響について考えてみたい。
オバマ政権の核政策から大きく転換か
NPRとは、5~10年間の米国の核政策、核能力、核戦力態勢を定める報告書で、過去3回(クリントン政権:NPR1994、ブッシュ政権:NPR2001、オバマ政権:NPR2010)策定されている。(ただし、その全文が明らかにされたのは前回のNPR2010だけであり、NPR1994とNPR2001には公開版と同時に、国家安全保障上限られた人のみに回覧される非公開版が作成されてきた。トランプ政権のNPRでも、公開版にどの程度具体的な内容が書き込まれるかは定かではない)
NPRの策定プロセスは国防省を中心に行われるものの、核兵器の維持・管理や近代化を管轄するエネルギー省国家核安全保障局(NNSA)や、ロシアや中国との軍備管理などを担当する国務省など、省庁横断的な政策調整を行うのが通常であり、特に今回は統合参謀本部も積極的に協議に参加し、現場(軍)の意見を吸い上げることを重視している。
NPRの実務上の取りまとめ役となるのは、核・ミサイル防衛政策を担当する国防次官補代理(現政権ではロバート・スーファー氏がこのポストにある)だが、今回はポール・セルヴァ統合参謀本部副議長、フランク・クローツNNSA長官、クリストファー・フォードNSC上級部長(WMD・不拡散)などがそれぞれの立場から関与する他、著名な核戦略家として知られるキース・ペイン・ミズーリ州立大教授やフランクリン・ミラー元大統領顧問などが助言役として重要な役割を果たしているとされる。
これ以外にも、トランプ政権での見直し作業には、かつてブッシュ政権でNPR2001の策定に関わったスタッフが多く参画している。中でもペイン教授は、核兵器を柔軟に使用できる態勢を整え、限定核戦争を戦ってでも米国の勝利可能性を高めることこそが、相手への抑止に繋がるとの立場をとることで知られてきた。このことに鑑みても、トランプ政権におけるNPRは、「核のない世界」を標榜し、核の役割低減を目指したオバマ政権のNPR2010から大きく方向性を変え、柔軟な核戦力の使用やミサイル防衛など戦力の総合的強化を志向するという点において、ブッシュ政権のNPR2001を彷彿とさせる内容に回帰することが予想される。