安保激変

2017年11月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 核兵器の設計を担当するサンディア国立研究所の関係者によれば、B61-12は0.3 ~1.5~10~50キロトンと核出力を4段階に変更でき、なおかつGPSとレーザー誘導によって誤差30mの命中精度を実現する初の精密誘導核爆弾とされ、既に旧B61シリーズからの更新がかなり進んでいるという。そしてこのB61-12はF-35のウェポンベイに収まるよう設計されている。つまりF-35は、機体側のシステム統合と、新型核爆弾の更新をもって2024年頃にDCA能力を獲得することになる。

 だがトランプ政権内では、このF-35のDCA能力獲得時期を前倒しすべきとの議論が出てきている。F-35のDCA化前倒しは、核共有を行っている欧州正面において、ロシアがINF条約に違反するGLCMを配備し始めていることを筆頭に、核使用に至る閾値を下げつつあることに由来している。現在NPR策定に関わっている関係者によると、NATOにおける核運用の柔軟性を高め、既存のDCA運用国の負担を分散・軽減するためDCA提供国を増やしたり、ロシアの限定的な核エスカレーションに対して通常戦力の残存性を高めるとともに、S-500のような先進的防空システムを突破しうるステルス機による戦術核攻撃能力を確保すべきとの議論が出ているという。これらの議論は、あくまで欧州正面でロシアの各種拒否能力が高まっていることを背景としたものだが、西太平洋に目を向けた場合、中国の防空能力やA2/AD能力が高度化しつつあることを踏まえると、F-35のDCA能力獲得時期が早まることは、危機時に取りうるオプションを広げるという意味において日本の安全保障にもプラスに作用するだろう。

図表1 米国の核戦力態勢と日本に与える影響(筆者作成) 写真を拡大
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INF条約をめぐる米ロの攻防

 第四に注目されるのは、上述したロシアのINF条約違反に対抗して、米国もINF条約に縛られることなく、同水準のミサイルシステムを新規開発するかどうかという点だ。INF条約とは、1987年に米ソ(露)二国間で締結された史上初の特定兵器全廃条約である。同条約に基づき、両国は核・非核にかかわらず、地上発射型の射程500~5500kmの弾道ミサイル、巡航ミサイルを全廃しており、現在でも新たなINFの生産・実験や発射基の保有が禁止されている。

 ところが、ロシアは2007年頃からINF条約に違反する巡航ミサイルの実験を行っている疑いが強まり、2014年には米国務省による軍備管理のコンプライアンスに関する年次報告書の中で、ロシアが条約に違反するGLCMを有しているとの評価が公に下された。そして2017年3月には、セルヴァ統合参謀本部副議長が議会公聴会において、「ロシアは当該GLCMを既に実戦配備しており、(中略)それは欧州にある我々の施設のほとんどにリスクをもたらすもので、(中略)脅威を与える目的でロシアが意図的に配備したと考えている」と証言するに至っている。

図表2 INF条約違反とされるロシアのGLCM(射程2000kmと推定)が各地に配備された場合のイメージ
(出展:Steven Pifer,"Multilateralize the INF problem," Brookings, March 21, 2017.) 写真を拡大

 これに対し、米国の国防コミュニティでは上記のコンプライアンス報告が公表された2014年頃を境に、INF条約の今日的意義をめぐる戦略論争が活発化してきた。当時それらの主張は、戦略環境に対する現状認識や、INF条約対象国を米露以外に広げて条約の多国間化を図ることへの実現可能性に対する評価の違いから、従来通り条約を堅持すべきとする「INF条約堅持派」と、条約の脱退やINF水準のミサイルシステムの再配備を検討する戦略的柔軟性を確保すべきとする「INF条約脱退派」とに大別されていた。しかし2017年に入り、ロシアによるGLCM配備が確実となったことで、上記の論争は「条約堅持派」の前提を踏まえつつも、「条約脱退派」が提言してきたような、積極的な対抗手段を検討すべきとの議論がより受け入れられるようになってきている。

 既に米議会では、ロシアのINF条約違反に米国としてどのような対抗措置をとるべきかの議論が具体化されており、FY2015-16国防授権法は、INF条約を遵守しつつも、国防省と統合参謀本部は米国と同盟国を守るため、各種攻撃・防御手段を検討し、彼我の情報評価を議会と同盟国に報告・提供することを義務付けている。セルヴァ副議長は「検討内容の詳細は機密事項」として公表していないものの、現在議会で予算化が進められているFY2018の国防授権法案では更に内容が具体的になり、「法案成立後120日以内に、国防長官は、トマホーク、SM-3、SM-6、LRSO、ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)を射程500~5500kmの核・非核両用の地上発射型・移動式ミサイルに改修するためのコストとスケジュール、実現可能性を検証するとともに、同種のシステムを新規開発する場合と比較考慮して議会に報告すること」を義務付け、その報告を経て研究開発予算6500万ドルを授権するとの条項が盛り込まれている。

 ただし、同条項が認めているのは、あくまでINF条約に違反しない範囲での研究開発だ。また、国務省やホワイトハウスでも「ロシアのGLCMを相殺するには、航空機や水上艦・潜水艦から発射するミサイルでも十分であり、米国が進んで条約を脱退するメリットはない」との声も根強い。しかしそうした声を押しのける形で、米国がINF水準の地上発射型ミサイルシステムを再開発・再配備していく方向に進んでいくとすれば、西太平洋正面においても米陸軍や海兵隊が長射程の対地・対艦攻撃能力を保有する可能性を広げ、チョークポイントの封鎖や列島線防衛への貢献を拡大する余地が生まれてくる。またINF問題は、日本が導入を検討しているイージス・アショアの潜在的な拡張性にも間接的に関連している。この点は、後述するトランプ政権のミサイル防衛見直し(BMDR)の方向性と合わせて考察することとしよう(後編へ続く)。

  
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