安保激変

2017年11月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

 こうした状況を打開するためには、核を先制使用せざるをえなくなるケースが想定されるが、ミニットマン3に搭載されているW87核弾頭の出力は300キロトン、トライデントD5搭載のW76-1でも最低100キロトン(※広島型原爆が約15キロトン)と極めて爆発力が大きいことから、付随被害を抑えて武装解除に使用する場合のハードルは自ずと高くなってしまう。他方、核爆弾を搭載可能な戦術航空機(Dual Capable Aircraft:DCA)の進出速度の遅さを踏まえると、DCAと戦術核の組み合わせは即時的武装解除には適していない。その点、弾道ミサイル搭載の低出力核は即応性と適格な破壊力を併せ持つことになる。

 実際、ミニットマン3を米中西部のサイロから発射する場合であれば40分以内、トライデントD5をグアム周辺海域から発射する場合であれば18分以内に目標を撃破することが可能だ。これは韓国の烏山基地や青森の三沢基地に配備されている戦術航空機が北朝鮮上空に到達するよりも早く、迎撃される恐れもないという点で、強力かつ迅速な打撃力となることも念頭に置いておくべきだろう。同様の文脈から、オバマ政権末期に検討された核兵器の先制不使用(No-First Use:NFU)が宣言される可能性も極めて低く、むしろ核の先制使用オプションを維持することの重要性が強調されることが予想される。

開発継続をめぐり論争が続いてきた「LRSO」

 第二は、LRSO(Long-Range Standoff Weapon)の開発継続である。LRSOは、B-52戦略爆撃機に搭載する空中発射型核巡航ミサイル(ALCM)=AGM-86Bの後継となるミサイルである。日本では殆ど報じられることはなかったが、実はLRSO開発継続の是非をめぐっては、長らく米国の国防コミュニティ内で論争が続いてきた。

 オバマ政権はNPR2010の中で、海洋発射型核トマホーク(TLAM-N)を完全退役させ、その再配備オプションを放棄する代わりに、前方展開させる航空機搭載型核兵器を更新・保持し続けることで抑止力を保証することを約束した。LRSOの開発はその代替措置の1つであったが、2015年に入りウィリアム・ペリー元国防長官らがその開発中止を訴えたことで問題が表面化した。ペリーの訴えが注目を集めたのは、同氏が冷戦期にALCMの必要性を説き、開発を推進した張本人だったからだ。元々ALCMが開発されたのは、ソ連の防空網の発展に伴い、目標に接近して核攻撃を行うことが困難になったB-52に対して、新たに防空圏外からスタンドオフ核攻撃を行うオプションを与えるためであったが、今日ペリーらは核搭載ALCMを残すことは相手が通常攻撃と核攻撃を誤認する危険があると主張。更に、今後開発されるB-21のステルス性があれば、敵の防空網に侵入して攻撃することが可能であるから、かつてのようなALCMは必要ないと訴えたのである。

 しかしながら、防空システムの拡散・高度化やカウンター・ステルス能力の発展を鑑みると、未だ開発されていないB-21に過度に依存するのはリスクが高く、まして敵のA2/AD能力によって、危機や有事の際にステルス機を前方展開させるのが一時的に難しくなる状況が徐々に生起しつつある。したがって、B−21の運用を想定した場合でも、グアム以東から2500km超のALCMを発射できるオプションを確保しておく意義は大きい。これは同盟国に差し掛けられる拡大抑止を支える、切れ目のないエスカレーションラダーを確保する点からも重要であり、現在の見直し作業の中でLRSOの重要性がきちんと評価されていることは、同盟国として評価すべき点と言えるだろう。

核兵器の老朽化と新型核爆弾の需要

 第三は、F-35の核運用能力と航空機搭載型の核爆弾の統合・近代化に関連する。F-35は米国のみならず、我が国の航空自衛隊を始め、各国で採用が始まっている最新鋭のステルス・マルチロール機であるが、現在米国やNATO諸国で、いわゆる核共有(nuclear sharing)メカニズムの中で戦術核のデリバリーシステムとして使われているDCA(※具体的には、ベルギー、オランダ、トルコのF-16と、イタリアのトーネードIDS)の老朽化・退役に伴い、それをF-35によって更新する意味合いもあることから、F-35にも核運用能力を付与することを予定してきた。ところが、現有のDCA用戦術核爆弾(B61-3/B61-4)はその大きさからF-35の胴体内部に設けられているウェポンベイ(爆弾槽)に収めることができない。F-35はあらゆる兵装を機体内部に搭載することによって、レーダー反射断面積(RCS)を減らし高いステルス性を実現しているため、核兵器を内部に収められなければ、そのステルス性が宝の持ち腐れとなってしまう。そこで、F-35の運用に適合する新型核爆弾の開発が求められていた。

 こうした新型核爆弾の需要は、核兵器の老朽化問題とも関連している。現在米国が保有する核弾頭は、最新のものでも1989年に製造されたものであるため、歴代政権は核兵器としての確実な作動を保証するとともに、安全管理に支障をきたさないよう、その信頼性と耐用年数維持のための延命措置(Life Extension Program:LEP)を講じてきた。2013年には、余剰核弾頭を適切に削減しつつ、LEPを通じて効率的かつ安定的な核備蓄を実現することを目指した構想が提唱され、弾道ミサイル用に設計された5種類の核弾頭と、戦略爆撃機およびDCA用の7種類の戦略核・戦術核兵器を、3種類のICBM・SLBM用核弾頭と、2種類の航空機用核兵器に統合・更新することが決定された。その1つが前述のLRSOであり、もう1つが新型核爆弾B61-12である。

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