安保激変

2017年11月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

米ハドソン研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。岡崎研究所研究員などを経て2019年より現職。日本国際問題研究所研究委員等を兼任。専門は日米の防衛政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策。

ブッシュ政権時代との違い

 だがこれだけをもって、トランプ政権の核政策がブッシュ政権の方向性と完全に一致すると見積もるのは時期尚早だ。というのも、ブッシュ政権が精密誘導可能な5キロトン以下の低出力核(※同プログラムは中止された)やミサイル防衛など、「実弾が飛び交う状況」を想定した戦力構築を重視した背景には、ロシアのような伝統的核大国を主要な脅威と見なすのではなく、大量破壊兵器(WMD)の拡散とそれに加担する「ならずもの国家」やテロ組織などの非対称脅威を、核を含む総合的戦力を構成する上での潜在的脅威と位置付けていたからである。

 ブッシュ政権のNPR2001が物理的な攻撃・防御能力に由来する「ハード・アプローチ」を重視していたとすれば、オバマ政権のNPR2010は「ソフト・アプローチ」で問題解決を図ろうとしていた点が特徴的であった。NPR2010では、「核テロの防止」と「核不拡散」を政策目標の最優先事項として位置づけるとともに、安全保障における核兵器の役割低減を進めることで、世界の安全に寄与するとの方向性が打ち出された。

 ここで合わせて振り返っておくべきなのは、米国の核政策の力点をこうした方向にシフトさせる前提として、NPR2010 には米国と核をめぐる大国間の戦略環境が一定程度改善するだろうという前向きな評価が内在していたという点である。オバマ政権発足当初に標榜されていた「米露リセット(関係改善)」などのフレーズは、まさにそれを象徴したものであった。

 ところが、過去8年間に生じた様々な国際情勢の変化はそうした期待に沿うものではなかった。

 ロシアは、2014年のクリミア侵攻を筆頭に、核戦力の増強によってNATOに対する通常戦力の劣勢を相殺しようとしており、戦略核だけでなく、1987年の中距離核戦力(INF)全廃条約に違反する地上配備型巡航ミサイル(GLCM)の実戦配備を開始している。中国は、残存性の高い移動式ICBMの配備により着実な対米抑止力を強化しつつ、西太平洋における米軍の介入を阻止・妨害する能力(A2/AD)として、各種ミサイル戦力を拡充している。そして北朝鮮に対する「戦略的忍耐」は失敗し、日本や韓国を射程に収める数百の短・中距離弾道ミサイルばかりか、今や米本土を捉えるICBMを手にしようとしている。

 こうした現実は、オバマ政権のNPR2010が前提としていた戦略環境が実現していないことを象徴しており、トランプ政権の政策担当者の間で、核兵器をめぐる問題が再び国家間のパワーゲームに回帰しているとの認識を呼び起こしている。

「核の三本柱」の維持、近代化を

 このことから、トランプ政権のNPRでは、米国の核政策の最優先事項を再び「核抑止」に引き戻し、総合的な抑止力を高めるための様々な方策が具体化される見込みである。以下に、その代表的なものを列挙してみたい。

 第一は、ICBM、戦略ミサイル原潜(SSBN)+潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機からなる「核の三本柱」の近代化を着実に継続することである。具体的には、ミニットマン3・ICBMやオハイオ級SSBNの後継となる新型のデリバリーシステムの更新予算を確実に確保し、新型ステルス爆撃機B-21の開発を続行することを指す。オバマ政権では、NPR2010や新START条約における実戦配備済み戦略核を1550発以下にするとの約束の下、各種デリバリーシステムの再編が行われた。この一環として、本来核弾頭を3発搭載できるミニットマン3を単弾頭化するとともに、2018年までにその配備数を450基から400基にまで削減することが決定され、米国の核戦力態勢はトライデントD5・SLBMを相対的に重視する形にシフトしていった経緯がある。

 一般的に、弾道ミサイルの射程と命中精度は、SLBMよりも地上配備型のICBMに優位がある場合がほとんどであるが、トライデントD5は、SLBMでありながら1万2000kmに及ぶ最大射程と誤差90mと言われる極めて高い命中精度を誇ることから、ICBMを全廃して予算を削減し、その分をB-21とSSBN+SLBMの更新に回して「二本柱」とした方が効率的との意見も見られた。しかしながら、セルヴァ統合参謀本部副議長やハイテン戦略軍司令官は、依然としてICBMを含む「三本柱」を維持し、これらの近代化を続けることの重要性を繰り返し強調している。また既に米空軍はノースロップ・グラマンとボーイングに対して、現行のミニットマン3よりも命中精度、指揮統制、整備のしやすさなどの諸点を向上させた新型ICBMを試作するよう依頼していることを踏まえると、ICBMが突然の“脚切り”にあうことは考えにくいと言えるだろう。

 またこれ以外にも、精密打撃が可能な戦略ミサイルシステムに爆発力の極めて小さい核弾頭を搭載するオプションも合わせて検討されていると言われている。これも現政権でNPRの策定に関わっている専門家の顔ぶれを見れば、十分に考えられることだ。

 命中精度の高い低出力核弾頭と即応性の高い弾道ミサイルの組み合わせは、核兵器が実戦使用される閾値が低下するという側面だけを捉えると、懸念すべき傾向に映るかもしれない。しかし、現在北朝鮮が複数保有している移動発射基(TEL)搭載のノドンや、固体燃料式SLBMである北極星1型をベースに開発された北極星2型、更にはそれらをベースに開発しうる非脆弱な移動式ないし再装填可能なサイロ式ICBMを北朝鮮の山岳部に複数配備された場合、これらを通常兵器で撃破することは極めて難しくなるという現実も直視する必要がある。

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