トランプの対策
トランプ大統領は、ロシア疑惑に対する対策をとっています。
第1に、ロシア疑惑とウラン合意のすり替えです。トランプ大統領は、2010年ヒラリー・クリントン氏が国務長官に在職中、米国のウラン採掘権の2割を所有するカナダ企業の支配権をロシア国営の原子力企業「ロスアトム」が獲得した問題を取りあげています。同大統領は、ウラン合意が結ばれたのはロシアからクリントン財団に巨額寄付がなされたからだと主張し、「本当のロシア疑惑はウラン合意だ」と訴えています。そのうえで、ウラン売却取引を巡るクリントン氏とロシアの関係を捜査するように求めています。
第2に、ロシア疑惑の「調査報告書」に対する信頼度に疑問を投げかけています。選挙期間中、クリントン陣営と民主党全国委員会が資金提供をして、同報告書が作成されたことが発覚しました。
米メディアは、「調査報告書は、ロシア疑惑に関する米議会の調査において中心的な役割を果たした」と報じています。さらに、米連邦捜査局(FBI)はこの報告書に基づいて捜査を本格的に動いたのではないかという疑念も出ています。トランプ大統領は、報告書をフェイク(偽)だと断じています。
第3に、クリントン元国務長官と民主党に対する攻撃です。ロシア疑惑はクリントン氏及び民主党による「魔女狩り」であり、前回の大統領選挙で敗れた「言い訳」でもあると、自身のツイッターに書き込んでいます。
ただ、どの対策もロバート・モラー特別検察官の捜査をストップさせるだけの効果を上げていません。
トランプが決断する日
今後、司法取引が行われたパパドポロス氏の証言により捜査が進み、起訴がマイケル・フリン元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、娘婿のジャレット・クシュナー大統領上級顧問及び長男のジュニア氏までに及ぶと、トランプ大統領は恩赦の権限を使うか否かの決断を迫られるでしょう。
『トランプのリセットボタンの意味』で説明しましたが、血縁に恩赦を与えるのは、非常に政治的リスクが高いことは言うまでもありません。これまでにも増して、ホワイトハウスは「縁故主義」だと非難されることは確かです。そうは言っても、「血の濃さ」を最も重視するトランプ大統領ですから、身内に対して恩赦を与える可能性は否定できません。
一部の米メディアによりますと、トランプ大統領は、ホワイトハウスの弁護士チームとは別に設けたロシア疑惑の対策を講ずる私的弁護士チームに、「大統領は自分に恩赦を与えることができるのか」と、質問をしたと言われています。仮に自分に対して恩赦を出した場合、自分を救うことができますが、負のレガシー(政治的功績)を作ることになります。「取引の達人」と呼ばれるトランプ大統領は、この「取引」を行うべきか、葛藤状態にあるのです。
もう一つの決断は、モラー特別検察官を解任するかです。現段階ではトランプ大統領は、モラー解任説を否定しています。
仮に捜査の途中でモラー氏を解任した場合、司法妨害だと非難を浴びることは回避できません。ジェームズ・コミー元連邦捜査局(FBI)長官を解任した時よりも、世論の反応は大きくなるでしょう。
一つ例を挙げてみましょう。リチャード・ニクソン元大統領は、アーチボルド・コックス特別検察官を解任させたことにより、世論はニクソン弾劾支持に動きました。実業家であった頃、ニクソン元大統領から一通の手紙をもらい、それを大切に保管しているトランプ大統領は、特別検察官解任のリスクを認識していることは間違いありません。
ただ、トランプ信者は、モラー特別検察官解任を支持するでしょう。というのは、トランプ信者のお気に入りであるFOXニュースの番組「ハニティ」は、モラー氏の捜査を「魔女狩り」と呼んで批判しているからです。さらに、「ハニティ」は2016年米大統領選挙期間中にクリントン候補(当時)に政治献金をしたモラー氏の捜査チームメンバーの実名並びに献金額をリストして、同番組で複数回にわたり紹介しているからです。