今回のテーマは「トランプ大統領に立ち向かうコノリー下院議員」です。米国南部バージニア州での白人至上主義者と反対派との衝突事件に関するドナルド・トランプ米大統領の「喧嘩両成敗」の発言は、米国民に衝撃を与えました。トランプ大統領の発言に強く反対するジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区選出)は、9月中旬、同大統領に白人至上主義者に対する明白な非難を要求する法案を、米議会上下両院で通過させました。
本稿では、中西部ミネソタ州セントポールでトランプ支持者及び南部バージニア州アナンデールでコノリー議員を対象に実施した現地ヒアリング調査の結果を交えながら、衝突事件を中心としたトランプ大統領の言動について考えてみます。
ジェリー・コノリー下院議員の思い
アイリッシュ系のコノリー下院議員(67)は、民主党議員で首都ワシントンに隣接する南部バージニア州第11選挙区選出の議員です。2008年以降バージニア州は米大統領選挙の激戦州として注目され、特にフェアファックス市がある第11選挙区は、同州の行方を左右する極めて重要な選挙区になっています。12年米大統領選挙においてバラク・オバマ大統領(当時)は、投票日の直前に第11選挙区を2回訪問しました。筆者は、この地域を中心に08年から戸別訪問を実施しています。
知日派のコノリー議員は、国際ビジネスコンサルタント及び上院外交委員会のスタッフなどを経て、08年下院選で初当選を果たしました。同議員には、日系自動車メーカー並びに金融機関のコンサルタントとして訪日した経験があります。因みに、上院外交委員会ではジョー・バイデン上院議員(当時)の下で仕事をしていました。
4月上旬、下院外交委員会に所属するコノリー議員は、エド・ロイス委員長(共和党)と共に超党派で訪日しました。第11選挙区には韓国系米国人が多く住むアナンデールが含まれており、そこでは北朝鮮の核・ミサイル開発問題の関心が高いため、同議員は米CNNテレビなどで、この問題について積極的に発言をしています。
コノリー議員は大らかな性格で親しみやすく、人種・民族及び宗教といった文化的多様性の受容を重視しています。同議員がトランプ大統領に挑戦するきっかけとなったのが、8月12日にバージニア州シャーロッツビルで発生した白人至上主義者と反対派との衝突事件に関する同大統領の「双方に非がある」及び「双方にとても素晴らしい人がいる」という発言でした。
コノリー議員は、「人権」や「平等」といった価値観を重視する米国の大統領らしくないトランプ大統領の発言に抗議し、同大統領が白人至上主義者を明白に非難することを要求する法案を、9月11日に上院、翌日12日に下院で通過させました。
白人至上主義者の心を捉えるトランプのメッセージ
支持率において低空飛行を続けるトランプ大統領は、支持基盤固めに必死です。同大統領は、バージニア州での白人至上主義者と反対派との衝突事件に関して、前者を擁護する発言をしました。この件について、9月13日ミネソタ州セントポールでトランプ支持者を対象にヒアリング調査を実施しました。FOXニュースの保守系コメンテーターのPR活動を担当している白人女性(59)は、「双方に非がある」というトランプ大統領の発言を強く支持した後で、次のように述べました。
「メディアは、シャーロッツビルでの衝突事件についてすべてを報道していません。片方(白人至上主義者)のみを報道しているのです。アンティファ(反ファシズム)が暴動を起こしています」
この白人女性のトランプ支持者は、極左勢力で暴力的な組織「アンティファ」に所属する黒装束で覆面を被ったメンバーが、バージニア州での衝突事件に参加しており、暴力を振るった点をメディアは報道していないと主張していました。
「フェイク(偽)メディアです」
彼女は、トランプ大統領と物の見方や考え方が完全に一致していました。
トランプ大統領は、全米で論争となっている南北戦争における南軍兵士像撤去について文化論を持ち出し、「美しい銅像と記念碑が撤去されることで、我々の偉大な歴史と文化が引き裂かれるのを見るのは悲しい」と自身のツイッターに投稿しました。「偉大な文化」とは、白人文化を指しているとみられます。「白人文化を守る」というメッセージを発信し、支持基盤の一角を成す白人至上主義者をつなぎ止める意図があるのです。